2日目

 目が覚めた。依然として変わらない景色、町の様子。

 しかし、泣き声が薄っすらと聞こえる。


 空には、もうすっかり日が昇っていて時としてお昼だった。


「佐奈ちゃん、おはよう」

 そう顔を覗かせた幸羽。


「何があったの?」

 そう、現状を知ろうとする。


「うん。行方不明者の捜索だよ。何故か島民だけでやってるんだ」

 え?


「それって、危なくない?」

「私もそう思うけど、国からの支援がまだなんだって少なからず数日はかかるらしいよ」

 つまり、この無秩序で数日間の行動か。


「それに、本州の方にも大きな被害がでたらしく、そっちにもだからって余分に時間が必要だって」

 

「そうか。分ったありがと」

「うん」


「で、未来と美雨は、どこにいったの?」


「配給を取りに行ってるよ。ただ、」

「ただ?」


「ただ、我慢の効かないご年配の方達が暴れまわってるから危ないんだよ。私のお父さんも、美雨のお父さんもケガしてて動けないし。傷口が化膿しなければ良いけど」

「なるほど。分った。ありがと」


 この島の人口は四桁にも満たないけど、その大半が高齢者だ。もちろん要介護の人も居る。その人達の行動によって、支障が出なければいいけど。


「戻ったよー! あ、佐奈ちゃん起きてる!」

「おい。未来走るな。怪我したらタダじゃすまないぞ」


 いつもの二人。


 その二人が持っているのは、四つのアルファ米。五目とワカメの二種類。

「佐奈ちゃん! 疲れてるでしょ? 好きな方を食べて良いよ! でも二個しかないけど」

「ありがと、じゃぁ五目御飯でも良い?」

 

 渡されたそれは、案の定、冷たい。

 

「じゃぁ、私も五目食べよっかな」

「ちょっと、未来ちゃん。それ私も食べたいですよ!」

「幸羽はさっきも五目だっただろうが、ワカメで我慢しろ」


 微笑ましい空間が一定期間流れる。でも、景色を見ると。

 いや、何でも無い。何でも無い。何も無いんだ。


 暗くて良く分からなかったが、私たちが寝ていた場所は、公園によくある屋根付きの大きいベンチだった。

 

 時は速く、もうすっかり袋の中は空。

 美雨がゴミを回収しいる。


「よし、食べ終わったけど何やりたい?」

 美雨が口を開いた。


「トランプ!」

「未来ちゃん、今そんな物がここに有ると思う?」

「そうだぞ、未来」


「いやぁ、何故かポケットに入ってたからさ」

「本当? 未来ちゃん」

「マジかって、それタロットカードじゃないか」


「え? ほんとだ」

「もー未来ちゃん。期待させないでよー」

「そうだぞ。占いしか出来ないじゃないか」


「でも他にやる事無いし、占っちゃう?」

「いいねそれ。これからの事占っちゃう?」

「気休めにはなるか」


「よくシャフルして、佐奈! 引いて!」

「え? 私?」


「うん。佐奈が決めるの!」

「わかった。じゃあこれ」


「うーん。吊り人?」

「未来ちゃん。意味は何?」


「えっと意味は、幸せを掴むための困難。幸せを掴む為には耐えろ。だっけ?」

「いや、私に訊かれても」

「だからと言って、僕を見るな」


「とにかく! 今は、大変だけど、耐えれば良い事が起こるって事!」


 そんな雑談をしている所だった。


「ねぇ。この中に幸羽さんは居るかしら?」

 と女性に声をかけられた。


「私だけど?」

「ちょっと来てくれるかしら?」


「え?」


 そう言って連れて行かれた。


 虫知らせが聴こえた気がする。


 しばらくして、幸羽が返ってきた。


「なんだったんだ?」

「えっ? いや、なんでも無い」


 どことなく雰囲気が暗い。それに虚ろな目をぶら下げて居る。


」そんな言葉が風に共にやってくる。

 しかし、その言葉は私以外に聴こえる事は無かったようで、先ほどの話を続けている。


 しかし、まだ起床から一時間程しか経っていない。


 そして喋る話題を尽きた所で、散歩をする事にしたらしい。


 私なら話す事すらも拒みたいのに、君達は何故、動けるのか疑問に思った。

 私は、動きたくないし話したくもない。一人にしてほしい。


 だけど、と思う感情が垣間見える友人に連れられ、散策を始める。

 私も空元気で。


 

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生きるため「静かな塩水」 生焼け海鵜 @gazou_umiu

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