1.1日目

 夜。


 私達は配給物の毛布に包まり、時を過ごしていた。

 いつも通り、いや、いつもより綺麗な星空を眺めている。


 電気と言う電気は止まっているようで、スマートフォンの充電やその類で相変わらず中枢機関の周りは騒がしい。


「うるさいね」

 隣の未来が言った。


「そうだね」

 と相づちを打つ。


 でも、他の二人はすっかり夢の住人で、寝息を吐いている。


 明日は何が起こるだろうか?

 貯蔵庫の蓄えはそこまで多くないようだし、争いが起こる事は必然か。


 そんな暗い思想に染まる。


 この蛇によって、島の約七割に甚大な被害が出た。

 予想されていた蛇より大きいそれは、我々の命綱をことごとく、吞んでいった。


 港も見える範囲では破壊され、また、こんなちっぽけな島には滑走路なんてない。

 それこそ、離島な為にヘリは来れないだろうし、そもそも止まる場所が有るかどうか。いや、荒れ地化した町だから、何機でも止まれるか。


 一部を除いて周りとの、通信が完全に絶えたと言ってもいいかもしれない。


 助かるか助からないか。自分次第って所か。


 少なからず希望の光は、とろ火だろう。


 普通に生きていただけなのに、なんでこんな目に遭わないといけないのだろうか?

 私は、学校でもそこまで浮く事も無く。平凡に暮らして居たじゃないか。

 なぜか、理解が出来ない。

 私は心の何処かで、この事が起こらないと思っていたのだろうか?

 違う。教科書で見た、あの悲惨な光景をただ単に”写真”としてしか見ていなかった。

 戦争も紛争も知らない我々だからこそ、その写真事実が仮想の物語でしか認識できなかった。現実に起こる事を、無視して、流した。


 大切な人すら、簡単に居なくなる世界。それは信じたくないが、実際起こっていて、分り切っている。

 ただそれが、環境か人物かの違いだけなのに、なぜ私達は、このような事を見て見ぬふりをしていたのだろうか?


 なぜ?

 なぜ?

 なぜ?

 何故?


 実際に起こる事は事実なのに、自分は被災しないと信じ切っているだけか。

 そして、その災害から目を背け、安全じゃないと価値のない幸せを拾い集めていただけなのか。

 いつでも奪える、シアワセの価値。


 私は、誕生日の事を思い出した。

 目に映るのは、誕生日ケーキ。蝋燭は無数に立っていて柔らかな灯を描いていた。


 私は、その蝋燭の灯を吹き消した。

 暗かった世界がパット明るくなって、お祖母ちゃん、お父さん、お母さん、未来、幸羽、美雨の笑顔が飛び込んできた。

 私は、微笑み返す。


「あめでとう」


 そんなしあわせだ。


 奪った蛇を憎む。

 それは、必然な事でも。予告されていた事でも。

 心が追い付かない。


 私は、布団の中に居て、夢を見ている。

 そう信じたい。

 それほどに、意識はふわふわし、朦朧としている。


 見て見ぬふりをした私達。見なかったのに、無視したのに、居なかったとした存在の不意打ちを、憎む。嘆く。


 私達が無視しただけなのに。

 憎むんだ。


 私は眠りに付いた。

 その眠りは、以前と同じ夢を見た。


 信じていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る