1日目

 私、佐奈さな未来みくと自宅で映画を見ていた。

 その映画は恋愛物で、主人公は最後、運命の相手と結ばれるという、ありふれたお話。


 外では雀が鳴いていて、至って普通の日常。お昼のニュースもいつも通りの薄い内容で花の話ばかりしていた。

 だからか、エンドロールはいつもより長く感じられ、少し退屈になってしまう。

 

「未来何か食べる?」

「ポテチ」


 二つ返事で返ってきた。

 この退屈は、食べ物でどうにかなるだろう。そんな魂胆。


 キッチンへ歩みを進めた瞬間。

 島内放送が鳴った。直後、大きな揺れ。


 この家は平屋で、二階やその類よりかは、揺れは小さいはずだ。

 しかし、立てない。

 

 吊るし照明は、天井に当たらんばかりに暴れまわり、食器棚は嘔吐するように陶器を吐き出した。


 聞きなれない音がする。

 警報?

 つなみ?


 聞きなれない言葉だ。


 だが、この家の轟音の中でもハッキリと聞き取れた。


 続いて放送。

「「高い所に逃げろ」」


 そんな内容。


「佐奈! 未来ちゃん! 大丈夫かい?!」

 鳴りやまない轟音の中、お祖母ちゃんの声が響いた。

 

「大丈夫! 未来と一緒に机の下に!」


 そう叫ぶ。


「出るんじゃないよ!」

 

 そう返ってきた。

 しばらくして、揺れは収まった。


 外は、嵐が去ったかのように静かだ。


 生憎、リビングにはガラスなどの破片は無く自由に動ける。


 突如として、島内放送。


 その内容は先ほどにも聞いた物と同じだ。


 しかし。

「佐奈、ドアが開かない」


 そんな言葉が聞こえた。

 この家は、そこまでボロ屋ではないはず。しかし、扉は未来の言う通りに開かない。


 え?


 お祖母ちゃんの居る部屋へ通ずるドアも同様に開かない。その姿は残酷で、目で見て分る程に歪んでいる。他の扉とは比にならない。


「お祖母ちゃん?! 大丈夫!」


「佐奈! お祖母ちゃんの事は後で良いから! 山へお逃げ!! 早く!!」


「でも、お祖母ちゃんは?!」

「私は、後できっと会えるさ! さぁ早く!!」

 そう叫んだ。


 私は、その言葉を信じた。

 

 開かない扉を何とか開けて、外へ出る。


 道路では島民が騒いでる。

 コンクリート塀に挟まれた人。足にガラス片が刺さりながらも、必死に歩いている人。

 

 そんな人は横目で流し、高所を目指した。


 高所への坂道。ふと町に振り返る。

 黒い濁流。それが、大蛇おろちにように這いまわっている。それは今まで居た自宅に忍び寄る。

 しかし、ここまでの道に、お祖母ちゃんの姿は無い。


 嫌な予感を無視し必死に走る。

 

 高所の開けた場所、そこに人が集まっていた。見慣れた顔も何人か居る。


「未来ちゃん佐奈ちゃん!」

 そう言いながら近づいてきた少女。


幸羽さちはだぁ!」

 そう言って、未来は手を振った。


「佐奈ちゃんはどうしたの?」


 正直、同級生と話しているほど、心の余裕は無い。

 開けた場所。そこにも、お祖母ちゃんの姿は無い。


 蛇は、もう既に手の届く家屋は全て破壊している。

 無論、私の家も。

 

「佐奈は、お祖母ちゃんを探しているんだよ」

そう、未来が言った。

「佐奈ちゃん! 大丈夫! 絶対また会えるって!」


 そう、肩をポンと叩いてきた。


「所で、未来、パパママは?」

「え? 知らないよ? ここに居ない?」


「私は、見てないけど?」


 そうだ。お父さんとお母さん。

 今日、船で帰ってくる。

 心無く、町を見る。


 蛇に飲み込まれてなければいいけど。

「違う」


 見た光景は、その連絡船の転覆。

 地上の海で、浮かんでいる。


 え?


「どうしたの? 佐奈」

「あそこ、連絡船」


 確かめたい。乗って無い事を確認したい。

 気づけば、足が動いている。

 しかし、誰かに腕を掴まれる。

「待て佐奈! 今言ったら自殺と同じ!」


 掴んだのは、仲のいい友人、美雨みう


「でも」

「でもじゃない。いずれ分るから安心しろ」


 背後、大人のイザコザが起こっていた。

 

 町長の幸羽の父。島長の美雨の父。

 双方とも母親の姿は無い。


 父らは、島民を落ち着かせるべく、メガホンを持っていた。しかし、胸倉を掴まれそれどころじゃない。


 島民のゲロ袋になっていた。


「大丈夫」


 私を含め四人はそう言って、胸を撫でおろした。


 自己暗示をかけるように。


 日はもう顔を隠そうとしている。

 明日は、どうなるかな?

 今日が終わる。

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