―夜道と猫―
岡田公明
俺と猫
月は高く空から見下ろすように、こちらを見ていて
自分の先を歩くように、いつだって目が合うように先回りしているような錯覚を覚える。
あくまで、それが幻想で自分の厨二的な発想であることは、理解しているし、どうして着いてきているのかも頭では理解している。
しかし、そういうある意味メルヘンチックな考え方はいつまでも、色あせずに体に残っているのは、成長していないということの裏返しでもある。
ふとした瞬間にその片鱗は現れる。
それは、花を眺めた時、じっと凝視してしまったり、ちょうちょが来たら追いかけてしまったり。
子供っぽい、成長のしなさ。
しかしながら、成長している部分も確実にあって、学習面や知的な面では、成長しつつも、結果的に、根幹にある知的好奇心の暴走はいつまでも成長の兆しを見せずに残っている。
しかしながら、別に今、夜の住宅街を歩いているのは、そんな厨二心が漆黒を求めているからではなく。
単純に、この住宅街を抜けた先にあるコンビニで、酒を買おうということでである。
いつの間にか、飲めるようになっているあたり、年齢的にも成長はしている。
その確かな成長を噛みしめつつも、少し成長していない部分を恥じらう気持ちもまた、成長であった。
しかし、抜けない物、変わらない物は変わらないと認めることもまた成長だと、友人は言う。
それこそ、個性であり、それを否定するのは良くないと、母は言う。
そんな意見にもまた、同意できるわけだが、恥じらう自身に対する気持ちは、揺るぎないものなので、どうしようにもできないのが、この問題の本質であった。
ともかく、今はとりあえず部屋に居る彼女と共に飲むための酒を買いに行かなければならないので、そんなことはどうでもいいのだ。
それをミッションとして成し遂げなくてはならない。
その道を歩けば、自分の靴から出た音が、結果的に耳に入る。
それを聞きながら薄暗く若干、気味の悪い先の見えない道を歩く。
十字路を曲がるとき、ふと猫と遭遇した。
目は猫目であり、尻尾をたらし、耳はぴんと立て威嚇の姿勢を取っていた。
もしかしたら、伸びをしていたのかもしれない。
普段から、車の駐車場などで猫を眺めていた時、このように体を伸ばして、リラックスする猫は見てきた。
その様子には似ているものの、背中の毛までも立てているあたり、単にこんな夜中を歩く俺を威嚇しているのだろう。
そして、進もうと思ったが、しかし何を思ったか、少し興味があった。
それは、単純な好奇心、どちらかといえばちっぽけな悪戯心である。
それは、小さいながらも大きな力となって、結局そこで立ち止まることになる。
ここで立ち去らなければ、猫はどうするのだろうか?
逃げるのか、攻撃するのか、はたまた落ち着くのか?
そんな好奇心と、純粋にその保護色のようになっている黒い毛と、赤い目に何か惹かれたのかもしれない。
その明確な真意は、己には分からないものの、突き動かす何かが、そこにはあった。
そんな好奇心による行動で、猫と向き合うことになる。
去ると思っていたのか、警戒体制は解いていて、再び警戒するのが気まずいのか、目を離すことは無い。
こちらも別に離す理由もなければ、それはなんだか気まずいと思ってしまった手前、どうすることもできず。
ただただ、猫と見つめ合うという構造ができる、それを天から見ている月にはどう映るのだろうか?
実に怪奇なことなのかもしれない。
そんな風に、時間にして約十分、恐らく時間はスロー感じられただろうし、実際のところは恐らく数分程度
いや、むしろそこまで経っていない可能性だってあるわけで...
そんな風に、時間が経てば、黒い猫もまるで降参したように逃げていく。
その先は、家と家の隙間だった。
単なる好奇心が自分を後押しして、ついていくことにした。
何処へ向かうのか、もしかしたら人の家の可能性もあるわけだが、別にそれでもよかった。
好奇心だけだった、それが向かう先はどこでも良かったし...
その結果が、どうなってもどうだっていい。
ただ、帰りには一応酒は買う予定だが、もう既にある程度は飲んでいるし
冷蔵庫は空ではない
だから、待つこともできるだろう。
軽い酔いはあるものの、気分は悪くない。
むしろ風に当てられて良いくらいだった。
月明かりの下を、街灯の横を通り、猫の歩く道を歩く。
そうして、向かう先は、ある寺だった。
鳥居があるが、神社と寺の違いは分からない、まぁ雰囲気的には神社だ。
そうして、終わりを告げた冒険で、なんだか気分はすっきりした。
そんな、なんでもない冒険はこうして終わりを迎えた。
ただ、それだけの話。
大人になって、そんな風に駆け巡って子供っぽい所はきっと、抜けないのだろうと思う。
だから、それを理解しながら今を楽しむのが、一番良いのだろう
―完―
―夜道と猫― 岡田公明 @oka1098
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