真夜中のたくちゃん
水定ゆう
真夜中
5時のチャイムが鳴る前。
いつもの広場のベンチに黒い猫を連れた存在が現れる。
学校帰りのようで、いつもの赤い本を片手に待ちぼうけていると、
「あっ、猫のお兄ちゃんだ!」
「やぁ、今日も来たんだね」
いつもの女の子がやって来る。
すると猫のお兄ちゃんと呼ばれた、百木ねこは少女にこう伝える。
「今日も聞きに来たのかな?」
「うん。猫のお兄ちゃん、お話聞かせて聞かせて!」
とんだリピーターだ。
猫はそう思いつつも、黒猫の頭を撫で、少女にお話をしてあげる。
「そうだね。じゃあ今日はこんな話をしようか。これはある警備会社で働く男が体験した話なんだけどね・・・」
「はぁー」
男は溜息を吐いていた。
それもそのはずで、男は本来、昼勤の警備員だ。それなのに、今日が非番の日だからって、会社から今日だけ夜間の警備の代わりをさせられていた。
「しかも連絡なしって、はぁー」
男は溜息を吐き続けていた。
男が警備しているのはとある製薬会社。昼間から何やら怪しい研究をしているそうだが、男はまるで興味がなく、今日もボケーってしていた。
「こんな時間に俺一人か。寂しいねー」
心細いとかではない。
単に暇すぎて、つまらないのだ。
「この仕事、辞めようかな」
給料は良い。待遇もいい。こんな出勤も滅多にない。
世間で言うホワイト企業に属しているのだろうが、その本質は知る由もない。男はそもそも、そんなことには
しかしつまらない現状に、嫌気が差しているのもまた事実だった。
「何か起こらないかな」
そう口にする男。
すると、
ガタガタガターー
急に扉が動いた。
「な、何だ!?」
男は急な出来事に振り返り、身震いした。
嫌な汗が出てくる。おいおい聞いたないぞと、喉の奥を否や唾が垂れていく。
「か、鍵は閉めたよな?」
男は震える足で玄関先に近づく。
磨りガラス越しに見えるのは人の足。誰か来たのか?いや、なんでこんな時間に。
今まで体験したこともない現状。
そんな恐怖が、男の心を抉り、恐怖心で支配していた。
ドンドンドン!
今度は叩く音。
男は冷や汗をかきながら、体感したことも悍ましい感覚が襲う。
「あ、開けろってことか?」
開けてはいけない。開けてはいけない。
それがわかっているのに、男の中の僅かな好奇心が、玄関先の鍵を開けてしまった。
すると、
「すみません、宅配便でーす」
「えっ!?」
玄関先に現れたのは、緑色の帽子に会社からの支給服を着た好青年だった。
「た、宅配便?」
「あっはい。うち、夜間専門の宅配業者でして、あっ知りません?宅配便のたくちゃん」
「えっ、あっ、たくちゃん?」
たくちゃんって、宅配便の名前だったんだ。
男はさっきまでの冷や汗が何処へや、血の気の引いていたのが戻って来たみたいで、冷静な顔になった。
「ってあれ、今日はいつもの人じゃないんですね」
「いつも来てるんですか?」
「はい。僕学生で、夜間のバイトしてるんですけど、ここにはほぼ毎日ですね」
宅配の青年はそう答える。
「実は昨日から連絡がなくて、昼勤の自分が代わりに」
「そうですか。大変ですね」
「ええ、全くですよ」
同情されてしまった。
「あっ、失礼ですけどここにサインもらえますか?」
「あっはい。ここですね」
「はい、ありがとうございます」
男はボールペンでサインをした。
しかしこんなキャスターにまで乗せて運ぶなんて、何が入ってるんだろ。
「あの、このダンボール箱の中身って?」
「さあ何ですかね。ああでも、開けない方がいいそうですよ。中、生物みたいなんで」
「生き物!?」
男は声を上げた。
「はい。さっきもガタガタって動いてて、しかもちょっとあったかいんですよ。生物系ですかね?もう気持ち悪くて」
「へ、へぇー」
「それじゃあ。ああ、絶対に開けないでくださいね」
そう言い残すと青年は去っていった。
しかし最後の言葉が気になる。
絶対に開けないでください。男はその言葉を聞いて、ゾゾっとしたが興味には勝てず、青年の言葉を無視してダンボール箱に手をかけた。
「い、生き物だったら、早く酸素あげないとね」
そう自分に言い聞かせる。
男は自分のことを正当化して、ダンボール箱を開けた。
ガムテープを剥がし、中身を確認するとそこにあったのは・・・
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
男は絶叫した。
中に入っていたもの。それは知らない方がいい。ただ一つ言えるのは・・・
「さぁて、どんな生物かな?」
真夜中のたくちゃん 水定ゆう @mizusadayou
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