真夜中の初恋物語
綾月百花
真夜中の初恋物語
私(唯)と涼君は京都に修学旅行にやってきている。
男女別に別けられているけれど、やはり修学旅行と言えば、百物語?とか言って、男子生徒が深夜0時の教師の巡回の後に、女子の部屋に遊びに来た。
廊下も部屋も既に消灯され暗い。
広い和室は大部屋で、女子の半分(10名)がその部屋で眠ることになっている。
その部屋に、10名の男子が忍び込んできた。
「涼君、私の隣においでよ」
「あ、もう、俺、座った。」
恵が涼君に声をかけたけれど、涼君は私の布団に横になった。
私はドキドキしている。
恵は涼君の事が好きだから。
この修学旅行で距離を縮めると公言していたから。
気が重い。
私と涼君は、もうお付き合いを始めているのだ。
内緒にしているけれど、休みの日には涼君の家に、毎度、お邪魔している。
仔猫のゆりとブチ猫のブチと遊んでいる。
学校も毎日、一緒に通っている。
混んだ電車の中では、いつも庇ってくれる。
正義感が強くて、格好よくて、爽やかな涼君の事が、大好きなのだ。
涼君も私の事を好きだと言ってくれている。
懐中電灯が1本だけ点けられた部屋の中で、涼君の手が、私の手を握る。
さりげなく、布団に隠している。
誰かに見られたら、大騒ぎされそうだけれど、涼君は手を離してくれない。
「涼君の隣は誰よ?」
「そんなことより、早く始めないと、教師に見つかったらヤバいって」
「始めよう」
「それで、百物語って、何をするの?」
「怖い話よりも、初恋物語にしない?」
恵は部活でもクラスでも、人気者だから発言に威力がある。
「それなら、恵からどうぞ」
「言い出しっぺだし」
クラスメイトが口々に恵に声をかける。
「そうね?私から始めます」
恵は張り切って、声を出して、皆に「しー」と静かにさせるために、「声を落とせ」と声をかけられた。
「私の初恋は、高校の入学式でした。私好みの男の子と同じクラスになれたの。彼、すごくストイックで、でも優しいの。成績も良くて、バスケがとても上手なの」
「この際、告白したらどうなの?」
「いいの?」
「すれば」
「聞いてやる」
暗闇で男子が囃し立てる。
「私が大好きなのは、橘涼君です」
「おおー」
言った。とうとう言っちゃった。
涼君、どうするんだろう?
私はドキドキしながら、涼君の返事を待った。
「ごめん。俺、好きな子がいるんだ」
恵の顔を見るのが怖い。
「誰?」
「それは秘密だよ」
涼君の手が、私の手をしっかり握っている。
「好きになってくれてありがとう。でも、俺も好きな子がいるから。ごめん」
「両思いになれそうだったのに、残念」
「恵ちゃん、許してやってね」
「私、失恋したの?」
女の子達は、みんな黙っている。
飛び火してくるのを恐れているんだ。
私も緊張している。
今のところ、私達がお付き合いしている事は内緒になっているから。
懐中電灯一個の明かりで良かった。
皆の初恋話……。
私達、まだ高校二年生だけれど、みんな恋をしている。
「次は、唯だよ」
「私の初恋は、電車で痴漢に遭っていたときに助けてくれたヒーローだよ」
「誰か分かっているの?」
「知っているけれど、今は恋愛育成中なの」
「と言うことは、もう告白したの?」
「それは秘密です」
「さあ、そろそろ2時になるよ。巡回があるから解散だね」
「おやすみ」
皆が、外に出て行く。
「唯、おやすみ」
耳元で涼君が囁く。
「おやすみ、涼君」
明日は班で自由行動。
縁結びスポット巡りのコースを回る予定になっている。
涼君は人気者だから、一緒の班になるのは難しいかなと思っていたけれど、どうやら涼君の友達が応援してくれているようだ。
涼君の友達にくじ引きの紙をもらった。
その紙を開いたら。涼君と同じ班になれた。
恵は違う班だ。
班を代わってと言われたけれど、交代は駄目だと修学旅行の実行委員に言われて、無理矢理、交代させられることもなく、無事に涼君と一緒の班になった。
「また、明日」
「またね」
涼君は、私の手を一瞬、ギュッと握って離した。
涼君の体温が離れていった。
その後、恵は荒れた。
涼君の相手を探そうとしている。
私は早めに布団に入って、眠ったフリをした。
布団の中は、涼君の体温が残っていて、温もりに包まれる。
幸せで、ヒステリックな恵の声を無視することができた。
部屋の女子も恵のヒステリーに付き合ってはいないようだ。
恵の声はしなくなった。
翌日は晴天になった。
涼君と私にくじをくれた男子(稲田君)と、文芸部の綾ちゃんと四人で、恋愛スポットを回る。
稲田君は綾ちゃんの事が好きなんだって……。
涼君と恋の行方を見守る。
真夜中の初恋物語 綾月百花 @ayatuki4482
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