真夜中に走る列車の行く先は

ゆーにゃん

列車の行く先

 黒一色の列車が真夜中に走る。


 そんな噂があった。


 しかし、実際にその列車を見た者はいない。


 ただの噂だからと、誰もが言う。


 だが、その列車は存在していた。ある条件を満たさなければ見ることも乗ることもできないだけ。


 私は、そういった噂や都市伝説を研究し解明する仕事に就いていた。そして、今回の解明する噂は『真夜中の列車』だ。


 ネット上で誰かが呟き、あれやこれやと噂が広まった。が、誰も見たことのないそれは所詮、作り話だと見向きもされなくなり始めている。


 私はそれを知りたい。なぜ、誰が、どういう目的で、経緯でネット上に流したのか。

 知るために、噂の出処を調べ赴き私なりに研究し続けた。


 そんなある日。私は、あまりの眠さに耐えられず眠ってしまう。そして、目覚めるとなんと三日も眠り続けていた。


 デジタル時計を見てさすがに焦る。まさか、そんなに眠っていたとは思わなかったからだ。時刻は午前二時。

 疲れていたのだろうか。


 噂の事実を究明しなければ。そう考えた矢先に、列車が走る音を聞く。

 こんな時間に? 

 私は、家を出て音が鳴る方へ向かうと噂の黒一色の列車が走り目の前で停車した。


 これはいったい? 何が起きている?


 扉がゆっくり開き、誰かが降りてくる。それは、深めの帽子を被り顔が見えない大柄な人。

 男性なのか、女性なのかも分からない。


 その大柄な人が、私に向かって手を差し出す。おそらく、切符を求めているのだろうが生憎、私はそのような切符は持っていない。はずだった。


 手を見れば、切符を握りしめている。いつの間にそんな物を……。

 大柄な人は、私から切符を受け取ると列車の中へ誘う。私はそのまま列車の中へ。


 中は、外から見るより明るく白い蛍光灯が照らす。床は赤い絨毯が敷かれ、座席は黒で統一されていた。


 私以外の人も乗っていたようで。ただ、若者より年寄りが大半を占めている。数人、若者もいるようだが。


 列車が動き出し、空いている座席に座ってみる。柔らかく沈み込み座り心地がいい。

 静かな車内。誰も喋らない。列車がどこへ向かっているのか、アナウンスは流れてこない。


 と、不意に誰かが呟いた。


「ああ……やっと終われるのだな……」


 それはどういう意味だ? 終われるとは何に対しての言葉なのか。

 私は言葉を発し、聞こうとするが声が出ない。何度、試そうとしても結果は同じ。


 喉に触れ困惑する私など誰も気に留めることなく列車は走り続ける。

 そして、外の景色が街中ではなく銀河を思わせる景色に移り変わっていく。


 それはあまりにも綺麗で、声を出す試みさえも忘れてしまうほどに。

 CGによる演出なのか、それとも本当に銀河の海にいるのか。私はただただ、その銀河を見つめたまま動けなくなる。いつまでも見ていたい。


 列車に乗る乗客は誰一人として言葉を発することなく銀河を眺める。

 銀河の海を渡り終わると今度は、赤くどこまでも赤々とし列車の中にいても熱さを感じる場所へと移り変わった。


 目が焼けるような痛みを感じても目を閉じることができない。徐々に近づく、マグマの中。ドロドロと煮え滾るそれに、列車は速度を緩めることなく突っ込む。


 私の意識はそこで途切れ何も感じられなくなってしまった――。

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