真夜中の大事件

砂漠の使徒

ある日の男女

「ねぇ……佐藤?」


 ベッドに入ってどれくらい経っただろうか。

 たぶん数時間は寝ていただろう。

 窓の外は真っ暗だ。

 冬の夜は長く、朝までは程遠い。

 そんな真夜中に、かわいい妻が僕を呼んだ。


「どうしたんだ?」


 今までこんなことはなかった。

 大抵二人共朝までぐっすりだから。

 わざわざ夜中に起こすなんて、きっとそれなりのわけがあるに違いない。

 それは……例えば真夜中にしかできないこと。


 つまり……。


 いや、違う。

 変な妄想をしてしまい、慌てて小さく首を振った。

 いくら僕らが互いを信用し合っていたとしても、まだ若い。

 もう少し、時期を見計らうべきだ。


 それじゃあ、なぜ彼女は……。


「私、怖いの……」


 不安げに呟き、僕に身を寄せる彼女。

 今までにない距離感に、緊張が高まる。

 胸が高鳴り、冬なのに布団がいらないくらい熱く感じた。


「なにが……怖いんだ?」


 真相を知るために尋ねた。

 この答えが先刻予想していた夜の行為ならと、不思議な期待と不安が入り混じる。

 僕だって、初めては怖い。


「あのね……その……」


 そっと目を逸らし、艶やかな頬を仄かに赤面させ始めた彼女。

 密着している彼女の体が、僅かにうごめく。

 まるで僕を誘っているように。


「なんだ?」


 こんなにも素直ではない彼女を見るのは初めてだ。

 よほど言うのがためらわれることを口に出そうとしているのだ。


 なおさら、聞いてみたい。

 しかし、できる男ならここはあえて聞かずにいた方がいいのではないか。

 それが優しさというものだ。


「無理に話さなくってもいいんだよ」


 いたわるように彼女の頭をなでる。

 彼女が困る顔は見たくない。

 いつだって笑っていてほしい。


「ううん、今言わなきゃいけないの」


 今……。

 真夜中の今。

 朝でも昼でもない、この時間帯に。

 彼女はなにを伝えようというのだろうか。


「わかった。言ってごらん?」


 心して聞こうじゃないか。

 覚悟を決める。

 どんな答えだろうと、受け容れよう。

 それが、深い愛で結ばれた僕らなのだから。


「一緒に……」


 一緒に?


「トイレ行こ……!」

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真夜中の大事件 砂漠の使徒 @461kuma

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