超短編小説「まよなか31」

夜長 明

みつけた光

 辺りは暗かった。

 いつもはもう寝てる時間だから、少し眠い。

 うーん、と伸びをして意識をしゃっきりさせる。

 ——駅まで少し歩いてみよう。

 大人も眠るようなときに外出したのは初めてだった。傘をさして薄暗い道を歩く。

 昨日から降っている雨はまだ止みそうにない。雲はどんよりとしていてなんだか不気味に見えた。けど大丈夫。こんなのへっちゃら。さあ行こう。


 しばらくすると、おもちゃ屋に着いた。少し寂しい気持ちになる。世界が終わった後みたいに静かだったから。それでもまだ歩く。

 田んぼの横を通り過ぎる。近くで虫の鳴き声が聴こえた。捕まえたくなったけど諦める。手は傘で埋まっていたから。遠くに見える山々は雨にさえぎられてかすんでいた。


 なぜだか走り出したい気持ちになった。逃げるように駆け出して、でもすぐに息が切れてゆっくり歩く。ぬめぬめした地面がそうさせたのかもしれない。寝転んだらきっと、泥だらけになるだろう。野良猫とすれ違いながら、そんなことを考えた。


 果てしないように長く感じられた道のりだったけど、無事に駅までたどり着いた。人は誰もいないし、明かりもほとんど点いていなくて、やっぱり世界は終わってしまったのかもしれない。不安がなかなか頭から離れないけれど、そんなことはないと信じている。変に余計なことを考えてしまうのは僕の悪い癖だ。


 ほら、向こうから電車がやってきた。


 真っ暗だった駅に光が差して、一瞬にして世界は明るさと色を取り戻した。

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