真夜中の散歩
瀬川
真夜中の散歩
街灯の明かりが等間隔に照らしている道を、二人で並んで歩く。
お互いに何も話さない。沈黙の空間でも、全く気まずくなかった。
それは繋いでいる手のせいかもしれない。
昼間では周りの目が気になって、手を繋ぐこともままならない。
こんなふうに誰もいなくて、暗い場所でなければ出来なかった。
別に悪いことをしている関係じゃないのに。世間の目を気にしなければいけないのは、たまに大きな声で不満を叫びたくなるぐらいに理不尽だ。
好きな人と一緒に生きたい。それだけだ。
堂々と出来れば良かったのかもしれないが、俺も彼もそうするには少しだけ勇気が足りなかった。
「寒くないか?」
「いっぱい着込んできたから平気」
春になったばかりだから、この時間は少しだけ肌寒い。
でもそれは分かっているから、モコモコするぐらいに着込んでいる。
強がりではなく本当に大丈夫、それが伝わったようで、ほっと安心するように息を吐く音が聞こえた。
街灯のないところだと、その表情を読み取れないが、きっと少しだけ笑っているのだろう。
「もうすぐ桜が咲くって。咲いたらさ、家の近くの公園で、お花見しない?」
「いいな」
「でしょ。夜はライトアップされるらしいから、すごく綺麗だろうね」
「だな」
「お酒とか、ちょっとした食べ物とか持っていこう。すっごい楽しみ」
「……楽しみだな」
こういうふうに、約束事をするのが怖いと思っているのを、彼はきっと知らない。
約束事は未来でも一緒にいると言っているようなもので、もしも断られたら別れを意味するんじゃないかと思うのだ。
だから受け入れられると、まだそばにいてもいいと許可をされた気がする。
「……今年も、来年も、その先も見に行こう」
そんな一言で、俺は天にものぼるぐらいに嬉しくなる。
「うん!」
二人だけの散歩道。
夜が俺達の姿を隠してくれる。
だからなのか、ここには二人以外誰もいないような気がして、それが寂しくもあり嬉しくもあった。
真夜中の散歩 瀬川 @segawa08
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