真夜中の教室で女の子と一対二になった
つばきとよたろう
第1話
真夜中の教室は不気味なほど闇に沈んで、それが当たり前のように明かり一つ点っていない。しーんと静まり返って、物音も聞こえない。
いや明かりが見える。校舎の二階の教室に小さな光を見つけた。
計画は中止すべきだと、高橋徹が声を張った。何かに怯えているように親指の爪を噛んだ。
「ここまで来て、それはないよ。みんなを見返してやるんだろ」
「木島が言ったんだ」
「それを真に受けた徹が悪い」
「ぼくのせいにばかりするなよ」
真っ暗な教室を見て、おっかなびっくりしている。昼間の賑やかな教室とは、まるで別世界だ。温かな太陽の光も射し込まないし、生徒の明るい声も聞こえてこない。急にぼーと気持ちを不安にさせる、低い音が外から響いてきた。
深夜0時に教室の時計の写真を撮って、明日見せれば、汚名は返上できる。ただそれだけだ。それだけのために、二人は真夜中の教室に忍び込んだ。
「木島の奴、きっと今頃布団の中で、いびきをかいているだろうよ」
松本智樹が、教室の中を懐中電灯の光で慎重に照らして、突然悲鳴を上げた。教室の真ん中の席に、女の子が姿勢を正して座っている。
「栗原さん、どうしてここにいるの?」
「二人こそ、どうしたの?」
質問を質問で返された。仕方ないから、木島にそそのかされたことを話した。
「そう、それは大変ね」
「栗原さんは?」
「私はちょっとね。でも、もう行かないと」
「ちょっと待ってよ。ぼくらを置いていくのかい?」
「私、行かないといけないの」
栗原さんは静かに言った。まるで生気が無く、顔色が悪かった。
「あと少しだから一緒にいてくれないか? ぼくらは0時に写真を撮らなければならないんだ」
「私、0時までに行かないといけないの」
「そんな事言わないでくれよ。三人寄れば、何とかと言うだろ」
「でも、行かないと」
「あと十分だよ。たった十分だけ待ってくれ。証拠の写真を撮ったら一緒に帰ろうよ。みんなで帰った方がいい」
ぼくらは、消えてなくなりそうな栗原さんを、どうにか引き止めた。0時になって、時計の写真を撮った。
「いいよ。さあ帰ろう。途中まで送るよ」
栗原さんは、何も言わずに頷いた。帰り道三人は一言もしゃべらなかった。それじゃあ、ここでと言って暗い夜道で別れた。
翌朝、学校に行ってみると、栗原さんの姿が見えなかった。担任の先生によると、栗原さんは交通事故に遭って、生死をさまよっていたらしい。が、昨夜峠は越えたという話だ。
真夜中の教室で女の子と一対二になった つばきとよたろう @tubaki10
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