真夜中
惟風
真夜中
好きなコできたんだだからゴメンなって簡素なメッセージが来てそれで終わりで、うん、終わりにされたそれだけ。
そもそもはっきりと恋人である宣言も確認もしないままに、何なら思い返せば隠れるようにひっそりとそう今の真夜中の暗闇に紛れるみたいに重なって朝の光でお互いの輪郭をはっきりさせてじゃあまたねを繰り返しただけだったから。
「でもだからって」
一人、静かな我が家で酒を片手に口をついて出る、ついでに吐瀉物も溢れてきそうになってトイレに駆け込む。
食道がヒリヒリするのを感じていくらかスッキリもして、燻った酔いに任せてスムーズに包丁を取り出してテーブルに向かう。
灯りもつけてない部屋にはカーテンから差し込んだ外の淡い光が入り込んでくる、ぐびりと喉を潤して手の中の切れない刃先をじっと見つめる。
コップが空になったのを存分に確認して床に置いて、両手で包丁を振りかぶった、そしてテーブルに叩きつけた。
なまくらの刃が木目に食い込む直前、手が滑って飛び上がったそれが自分を傷つける画が浮かんだ、
自分の身が何一つ傷ついていないことを心底安堵した。
「ふ」
包丁を握ったまま
泣くのも笑うのも空空しくて、ただじっと時計に目を凝らした。
時刻は午前二時を少し回ったところ、空調と冷蔵庫と自分の生きてる音がやたらと聞こえる。出勤する時間までにシャワーを浴びて身支度するのを考えたらあと三時間しか眠れないのはロングスリーパーな自分には
白昼の暴力的な光の中では私とそうでないものがあまりにもはっきりしていてそんな中で生きて摩耗して
でも貴方といる時は、いた時を思う時は、そういうのが少し和らいで、とても、良かった。
死ぬほど愛してる。
貴方を殺して、私も死ぬ。
その程度の想いで生きていられたら、良かったのにね。
もう私の頭は次の休みにホームセンターで新しいテーブルと包丁を購入するための計画を立て始めている。
真夜中 惟風 @ifuw
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