猫の魔法使いは治癒魔法がお得意
祥之るう子
★★★
「にゃあ」
「……えっ?」
僕は、多分十歳くらいの、元いらない子。
誕生日も、自分の歳もよくわからない、兄さんたちからも、父さんからも、いらないって言われ続けて、湖に落とされて、魔女への捧げものにされた。
魔女なんて、言い伝えでしか聞いたことがなくて、大きく広い湖の真ん中にある島には、誰もいったことがなくて。本当に、魔女がいるかもわからなくて。
僕はきっと死ぬんだって思った。
けど、魔女は本当にいて、僕を、もらってくれた。
いらない子だった僕を「私のかわいい子」って、毎日呼んでくれる。
誕生日を知らないと言ったら、魔女さんと出会った日を誕生日にしようって言ってくれた。
そして今、僕はこうして、魔女さんの家で、魔女さんのお手伝いをして暮らしてる。
まだ十日くらいしかたってないけどね。
僕が今やらせてもらってるお手伝いは、魔女さんの使い魔さんたちのお世話。
家に帰ってきた使い魔さんたちに、お水やご飯を上げたり、何か持ってきたら受け取ったり、体を洗ってほしそうだったら洗ってあげたり、遊んでほしそうだったら遊んだり……でも大事ななのは、彼らは僕の先輩だから、しっかりけいいってやつをもって接すること……。
って教わったんだけど。
「にゃあ」
「えーと……」
ハーブがたくさん干してある窓辺に飛び込んできたこの先輩は、昨日までと変わってしまっていた。
声が。
「にゃーん」
猫の声で鳴いているのは、翼をバサバサを慌てた様子で動かしているカラスだ。
「ど、どうしたの、モーリー!」
モーリーはこのカラスの名前。いつもちゃんと、カラスらしい鳴き声なのに、これじゃあまるで猫の鳴き声じゃないか。
「落ち着いて、とりあず、魔女さんを呼んでくるからね!」
僕はとりあえず、カップに水を入れてモーリーの前に置くと、外の畑にハーブを摘んでいる魔女さんを呼びに行った。
「あら、どうしたの、私のかわいい子」
木の扉を開けると、ハーブがたくさんのったカゴを持った魔女さんが立っていた。
「魔女さん、モーリーが、モーリーの鳴き声が変なんです」
「鳴き声?」
魔女さんはのんびりした声でそう言うと、中に入ってきた。
「にゃっにゃーんフギャーーー」
モーリーは魔女さんを見るなり大声で鳴いた。
魔女さんは「あらあら」とにこにこした顔で言った。
「喉の調子はどう? モーリー」
「にゃ~ん」
「痛みは取れたのね」
「にゃ」
「そう。許してあげて。キャシーも悪気があったわけではないのだから」
「キャシー?」
キャシーも僕の先輩だ。黒猫のキャシー。そう言えば、今朝は朝出かけて行ったきりだ。モーリーはこの家に住んでいるわけじゃなくて、森の中に住んでいるから、普段、魔女さんが呼ばないとあまり家に来ないけど、キャシーは僕らと一緒にこの家で生活している。
「魔女さん。キャシーがどうかしたんですか? もしかして、キャシーにも何か大変なことが……」
そうだったら大変だ! 探しに行かないと!
僕が慌てていると、魔女さんは目を見開いて、クスクスと笑った。
「大丈夫よ。実はね、昨日、モーリーがうっかり、私が炭を作っていたときに、煙を吸ってしまってね」
「えっ?」
「ちょっとした魔力を込めた木を使っていたものだから……ほら、昨日、危ないからちょっとの間、しっかり窓を閉めて、キャシーと一緒に家の中にいてくれるようにお願いしたでしょ? あの時よ」
「ああ」
「ちょうどそのタイミングで、モーリーがお願いしていた、ちょっと遠くに生えているハーブを採って帰ってきてくれたのだけど、おかげでモーリーが喉を傷めてしまって」
かわいそう。喉が痛いのって、辛いよね。僕も、風邪をひいたことがあるから、本当につらかったから。解るよ。
「軽く応急手当はしたんだけど、心配で。でも今家を離れられないし、今朝、キャシーに話したら、キャシーがね、モーリーの喉を治す魔法なら使えるから、行ってきてあげるって」
「へえ! キャシー、すごいね!」
「そうなの、助かるわあってお願いしたのよ。そしたら……」
「にゃ~ん」
悲しそうな、モーリーの声がした。
「あ……」
「喉が痛いのは治ったみたいだけど、ね」
魔女さんは、困ったような顔になって笑った。
なるほど。
喉が痛いのが治るキャシーの魔法は、痛くなくなる代わりに鳴き声が猫になっちゃうものだったんだ。
と、木の扉からカリカリと音がした。
「あらあら。キャシーだわ」
魔女さんがそう言うので、僕が慌ててドアを開くと、本当にキャシーが座っていた。
「にゃ~ん」
二本のしっぽがゆらゆら揺れて、なんとも誇らしげな顔をしている。
たくさん褒めてもらえると思ってるんだろうなあ。
痛いのは、ちゃんと治してあげたんだし、褒めてあげて……いいのかなあ。
まあ、褒めるのは魔女さんのお仕事だから、後輩の僕は、キャシーのお願いどおり、抱っこしてあげることしか、できないんだけどね。
結局その後、モーリーの喉は魔女さんが治して、僕たちはみんなでお疲れ様のティータイムをした。
お茶は、僕が淹れた特製のハーブティーを。キャシーは満足そうに飲んでいた。
今度、キャシーに魔法を教えてもらいたいな、と呟いた僕を見て、キャシーは嬉しそうに「にやーん」と鳴いた。
猫の魔法使いは治癒魔法がお得意 祥之るう子 @sho-no-roo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます