師匠が「貴女は復讐の為の道具なのです」とか言ってきたけどこの人どう見てもわたしのことめっちゃ好き

にゃー

弟子ちゃんの容姿はお好みでご想像下さい。


「そんな……嘘ですよね……?」


 信じられない。


 夜も更けた頃合い、師匠の寝室に響くわたしの声にはきっと、そんな気持ちがありありと浮かんでいたと思う。


「いいえ、嘘ではありませんよ。私は貴女に宿る力を利用する為に、貴女を弟子にしたのです」


 ベッドに腰かけ、静かな銀のまなざしをこちらへ向ける女性。

 師と仰ぎ慕ってきた彼女が語る真意とやらを、どうして信じることができようか。


「幼くして孤独だった貴女を拾い、師となり、その力と忠誠心を育て上げてきた」


 今までの思い出が。

 その中で幾度も浮かんでくる、師匠の笑顔が。

 わたしの口に、否定の言葉を呟かせる。


「嘘です……そんなの嘘に決まってる……!」


「ですから、嘘ではないと言っています。全ては、そう――復讐の為。我が弟子よ、貴女は私の怨嗟を晴らす為の道具でしかないのです」


「そんな――」


 昏い表情で言う師匠の言葉は、わたしにはとても受け入れられるものじゃなかった。


 だって。


 だって……!



「――ところで師匠、好きです」


「私もすきぃ♡――はっ」



 だってこの人、ぜーったい私のこと大好きだもん。



「い、今のは、そう、復讐の道具として好ましく思っていると言う意味であって」


 慌ててシリアスな雰囲気を取り繕う師匠だけど、♡と共に浮かんだでれっでれの笑顔を、わたしは見逃さなかった。


「へぇー……」


「な、何ですかその目は」


「いや、師匠嘘つくの下手だなぁって」


「失礼な物言いですね、仮にも師に向かって……」


「仮じゃないですよ。師匠はわたしにとって唯一で絶対で一番大事な師匠です」


「えっ……♡」


 ほらもう、すーぐメスの顔になるじゃん。

 見た目や表面的な口調は神秘的な大人の美女そのものなのに、わたし相手だとすぐでれでれになっちゃうのが師匠の唯一の欠点だろう。


「……あっ、こほんっ。ふふふ、私への忠誠心はしっかりと育っているようで何よりです。では今こそ、我が復讐の為にその身を」


「え、嫌ですけど」


「えへぇ、何でぇ……」


  うわぁ情けない顔。ほんと可愛い。

 彩度ゼロって感じの長い白髪が、表情と連動するみたいに項垂れている。


「普通に考えて、好きな人に復讐の道具扱いされるのってしんどくないですか?」


「ぅ、す、好きって、そんな……♡」


「性欲の捌け口としてなら、いくらでも使ってくれて良いんですけど」


「せっ!?急に何を言い出すのですか!?」


 あーあー純情ぶっちゃって。

 わたしが気付いてないとでも思っているんだろうか。


「だって師匠、夜な夜な寝てるわたしの枕元で懺悔オ○ニーしてるじゃないですか」


「……え?」


 端正なその顔が、ぴしりと固まる。


「……」


「……」


「……あ、あはは、何を言っているのですか、我が弟子よ?」


「……」


「私がそのような変態じみた事をしているなどと、全く、冗談にしてもタチが悪いですよ?」


「……」


「あはは、あは、あはははっ……!」


 ほい、録音魔術ぽちー。


「『ぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさいっ……んっ、こんな師匠で、ごめんなさいぃ、ぃっ……♡』」


「なあぁぁ!?な、な、な、何故ですっ、最上位の認識阻害魔術を使っていた筈なのに!?」


「いや、どんな認識阻害でも見抜く魔眼まじゅつを教えてくれたのは師匠じゃないですか」


「そうだった――!!」


 なんで自分が創り出した魔術を忘れてるんですかねこの人は。



 ……いつだったか、隣国の暗部がわたしの潜在能力とやらを危険視して、暗殺部隊を仕向けてきたことがあった。

 ちょっと師匠と離れた隙に周囲に潜んでいたそいつらに殺されかけてしまったのも、今となっては良い思い出だ。

 結局、間一髪のところで助けに来てくれた師匠が全員ボコボコにして、知り合いの割とイカれちゃってる方の魔女さんにサバトの生贄として着払いで送り付けて、この事件は収束。


 そのあと師匠は、二度とこんなことが起こらないようにって、魔術・技術を問わずあらゆる隠蔽、認識阻害を見破る魔眼まじゅつを創り出して、わたしに教えてくれた。


 あの時の師匠、カッコ良かったなぁ。

 思わず濡れ……もとい、惚れちゃうところだったよ。


 まぁとにかく、そんな規格外な師匠が創った規格外な魔術は、師匠本人ですら欺けない程に強力なものになってしまっていて。


「……つまり、全部筒抜けだった、と……?」


「ええ、まぁ」


 そのせいで今、師匠の顔は真っ赤を通り越して、最早顔面蒼白って感じになっちゃってるんだけど。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……ふふ、ふふふふふ……」


 おや?


「大丈夫ですか師匠?」


 肩を震わせて不気味に笑う師匠。

 なんだなんだと思っているうちに、その手に魔力の奔流が湧き上がり、一つの術を形成していく。


「……そう、最初からこうすればよかったのです……洗脳の魔術で貴女を操り、文字通りの道具とする……ついでに記憶に蓋をして、私の痴態を忘れさせる……」


 後者がメインなんじゃないかなぁとか勘繰りつつ、恐ろしい精度で魔術を組み上げていく師匠へ、残念なお知らせを一つ。


「いや、どんな精神干渉も防ぐ不可侵域まじゅつを教えてくれたのは、師匠じゃないですか」


「そうだった――!!」


 だから、なーんで自分で創った魔術を忘れちゃうかなこの人は。


 ……いつだかの話、ナントカ邪教団とかいうクレイジーな一団が、わたしの力を利用して邪神を召喚しようとしたことがあった。

 普通だったら複雑な手順やら大量の生贄やらが必要なところを、あまりに高すぎるらしいわたしの魔導干渉力をもってすれば、呪文を諳んじるだけで召喚が出来てしまうみたいで。ちょっと師匠から離れた隙に精神誘導の術をかけられて、トランス状態に陥りながら意味も分からない文言を唱えさせられた。

 まぁ、すぐさま師匠が解呪してくれたから、わたしの魂まで生贄にされちゃうことは無かったんだけど。


 それでも異界の存在が半分くらいは顕界しちゃってて、しかも何をどう間違えたのか、出てきたのは本来呼び出すはずだった邪神の一柱とは文字通り次元が違う、暗黒神とかいう『闇』って概念そのものみたいなやつ。


 召喚の反動で身動きも取れないわたしを庇いながら師匠は、三日三晩に渡ってその暗黒神と死闘を繰り広げて……最終的に何やら停戦協定的なものを結んで異界へと送り返したらしい。

 その時、暗黒神がわたしに向かって、


『いつの日にか、再びこちらの世界に顕界――否、転生を果たした時にこそ、また相まみえようぞ。我が真なる巫女よ』


 とかなんとか言ってたけど、今のところ何の音沙汰もないし、多分異界で大人しくしてるんだと思う。

 いやぁ、師匠ってホントすごいよね。『闇』と対等に渡り合えるだなんて。

 はーもうほんと好き。跪いて足とか舐めたい。指と指の間まで丹念にねぶらせて欲しい。


 ……何の話だっけ?

 あ、そうそう、その一件の後、二度とこういうことが起こらないように、洗脳とか精神干渉とかを一切合切遮断する不可侵域まじゅつを創り出して、わたしに教えてくれたって話。

 これもまた、師匠自身ですら打ち破ることの出来ない強固過ぎる防御術式なもので、まぁ要するに、わたしの脳裏に焼き付いた師匠の喘ぎ声を消し去る術は、この世界に存在しないというわけでしたとさ。


 ……いや、にしてもわたし、ちょっと師匠が目を離した隙に面倒ごとを起こし過ぎでは?ハイハイできるようになった直後の赤ん坊かな?


 ……ふむ、赤ん坊か。


「師匠」


「……何ですか?」


「ばぶばぶ。おぎゃあ」


「あぁ~♡可愛いでちゅね我が弟子ぃ♡♡ママがなぁんでもしてあげまちゅからねぇ~♡♡♡」


 よぉし、引っかかった。


「じゃあ復讐やめましょ?」


「もちろ――はっ。い、いえ、復讐こそが私たちの師弟たる由縁。それを止めるなどとんでもない」


 ちっ。


「罪悪感で性癖拗らせた人がなんか言ってら」


「……ぐすっ……」


 うわぁ、泣き出した。

 正直、毎晩懺悔オ○ニーを見せつけられてるせいで、師匠の泣き顔見るだけでこっちまで興奮してきちゃうんだから止めて欲しい。

 

 ていうかそもそも、師匠がわたしの枕元で毎夜毎晩妙なことをしているから、今日こうして師匠の真意を確かめに寝室に押し入ったわけなんだけど。

 一つ勘違いしないで欲しいのは、師匠の懺悔は弟子の寝姿を見ながら自慰に耽っていることを悔いたもの……ってわけじゃないってこと。


 最初は……と言っても結構前の話だけど、とにかく始まりはただ、寝ているわたしに向かって「ごめんなさい……こんな師でっ……私は師匠失格ですっ……!」とか何とか泣きながら懺悔しているだけだったのだ。

 何を謝っているのか気になりつつも、いつか面と向かって話してくれるだろうと知らないふりをしていたんだけど(決して泣き顔を堪能してたわけじゃないよ。ほんとだよ)……

 どうやら師匠、それを連日続けるうちに妙な方向に気が高ぶってしまったらしく、泣きながら自分の身体に手を這わせ始めたのが少し前のこと。


 流石に毎日枕元でそんなことをされてはこちらも興奮……もとい我慢できなく、じゃなくて……いや、合ってるか。そう、我慢できなくなってしまい、何か私に隠していることがあるんじゃないかと問いただしてみたところ、先ほどの復讐がうんぬんかんぬんとかいうしょーもない答えが返ってきたというわけ。


 まぁ多分、おのが私怨のために幼い私を拾い育ててきたことへの密かな懺悔って感じの美談っぽい何かなんだろうけど、正直私に対する溺愛っぷりが凄すぎて全く悲壮感が漂って来ない。

 それこそ、ラブが行き過ぎて懺悔オ○ニーし始めちゃうくらいだし。


 ……わたしのせいで師匠が変な性癖に目覚めちゃったって考えると、いやこれはこれで、中々クる・・ものがありますねっていう話は、今は置いておこう。


「まぁまぁ師匠、弟子の身体に欲情したって良いじゃないですか。元気で若い証拠ですよ」


「我が弟子よ、それは慰めになっていません……」


 言うまでもないかもしれないけど、師匠は最高位の魔女の御多分に漏れずそれはそれは長生きしている。だもんだからそりゃ、復讐したい相手の一人や二人くらいはいるのかもしれないけども。


「……ちなみに師匠、復讐とか言ってますがどこの誰に対するものなんですか?」


「私を蔑み追放した祖国です」


「それってどこの国です?」


「隣の大陸の」


「めっちゃ遠くじゃないですか」


「最後まで聞いてぇ……」


 いや、距離もスケールも面倒臭すぎる。

 ただでさえバカ広いこの大陸の端まで行って、意味不明なほど広い海を渡って、これまたバカ広い隣の大陸のどっかにある国まで行くって。

 海流が魔導をかき乱すせいで、転移まじゅつも使えないし。

 下手すると片道だけでも数十年かかるんじゃなかろうか。


「却下で。そんな長過ぎる新婚旅行、わたしはお断りです」


「し、新婚旅行だなんて……♡ーーはっ」


 おっといかん。

 つい妄想と現実がごっちゃになってしまった。


「そもそも祖国云々って、もう何百年も前の話なんじゃないですか?」


 こっちの大陸の古い文献にすら師匠の名前が残ってるんだから、この人が隣の大陸を追い出されたのはそれよりも前、本当に遥か昔の話ってことになる。


「師匠を追放した人達なんて、だーれも生きてやいませんって」


「そ、それはそうでしょうけど……私は、私を拒絶した故郷という国そのものにですね……」


「むしろ国が残ってるのかすら怪しいレベルですよ」


「うぐ……」


 図星ぃ!みたいな顔をする師匠。


 本人だって薄々、もうどうでも良いと思ってる気がするんだけどなぁ。

 本気で憎んでるんだったら、とっくに自分一人で復讐しに行ってるだろうし。それが出来るくらいの力が、師匠にはあるんだから。


「……ですが、それでは何のために貴女をここまで育てて来たのか……復讐を目指さねば、貴女を側に置く理由が……」


 小声でぶつぶつと面倒臭いことを。全部聞こえてますからね、それ。


「……はぁ」


 思うに師匠は、復讐という動機でしか自分とわたしを繋げられないと思っているんだろう。


 始まりがそうだったから。

 そのためにわたしを拾ったのだから。


 それを罪深く感じながらも、それだけがわたしとの絆なのだと、勝手に思い込んでいる。こっちはそもそも、師匠の復讐心なんて知りもしなかったっていうのに。


 まったく馬鹿な人だ。

 わたしは師匠が大好きで、師匠もわたしが大好きなのに、その気持ちを侮っている。

 愛は復讐心よりも軽いのだと。


 出会って数十年の愛情よりも、数百年抱えてきた憎悪の方が重いのだと、勘違いをしている。


「ばーか。師匠のばーか」


「……今日は本当に、珍しく失礼な弟子ですね」


「今日の師匠が珍しくお馬鹿さんだからですよ」


 師匠。

 わたしが相思相愛だって胸を張って言えるのは、あなたがこんなにも、わたしのことを愛してくれたからなんですよ?


 あなたとの記憶は、いつだってあなたの優しい微笑みに彩られていて。

 物心ついた頃からあなたと一緒にいたわたしにとっては、文字通りその笑顔が人生の全てなんです。


 だからわたしは、あなたからの愛もあなたへの愛も、疑ったことが無いんですよ、師匠。


 きっと、わたしがあなたのことを大好きなのと同じくらい、あなたもわたしのことが大好きなんです。


 それを今から、分らせてあげますよ。


「……ねぇ師匠」


「……何ですか?」


 どんな時だって、呼べば必ず応えてくれる、あなたに。


「復讐を諦めてくれるんだったら、わたし、何だってしますよ……?」


「……い、今、何でもするって言いました……?」


 愛情と欲望がダダ洩れな、あなたに。


「はい……勿論、こういう・・・・コトだって……」



 ――そう、色仕掛けでなぁ!!



「ちょ、ちょっ、何をしているんですか!?」


 長いスカートの裾をつまんで、少しづつずり上げていく。

 自分からそんなことをしだしたわたしを前に、師匠は慌てて自分の目を両手で覆っていた。


「やめなさい我が弟子よっ、いろ、色仕掛けなどと、私がそそそんな手に絆されると思ったら大間違いですよっ……!」


 指の隙間から思いっきりガン見しながら言っても説得力ないですよ。


「そうですかぁ……?」


 くるぶしから脛、膝下まで、露わになっていくわたしの脚を、師匠は舐めるような目付きで辿っていく。おかげさまでシミ一つないこの美脚は、早くも師匠の心を掴んでくれたようだ。


「ほんとは気になるんじゃないですか……?ここ・・とか……」


 あっと言う間にスカートの裾は膝の上まで。普段は師匠ですら見ることが出来ないわたしの太ももは、もう少しのところで辛うじて守られている。


 ……今たくし上げていってるこれ、一見何の変哲もないただのロングスカートなんだけど、実際は師匠がその魔導力を籠めに籠めまくりながら編んだ特別品。

 昔わたしが、小さな子供にうっかりスカート捲りされちゃったときに創り出した代物で、『捲れる』という現象そのものを拒絶する、概念や因果律すら書き換えてしまうような神器にも等しいスカートなのだ。

 まぁ色々と意味が分からない凄さなんだけど、何よりも一番のポイントは、師匠の手作りって点だよね。実質、師匠に下半身を抱きしめられているようなもんでしょこれ。


 ……とにかく、例によって師匠自身ですら抗えない、『わたしが望まない限り絶対に捲れない』という不変の因果を有したこのロングスカートによって、わたしの下半身は文字通り誰の目にも触れることなく守られ続けてきた。

 そんな、もはや神域の一つとすら化しているわたしの両脚の、特に師匠が内心ご執心だった太ももが、もう見える寸前のところまで来ているのだ。


「知ってますよ師匠。たまにこっそり、魔眼まじゅつで透視しようとしてるでしょ、ここ」


「な、何の、事やら……」


 顔を真っ赤にしながら言い訳しようとする師匠だけど、わたしが右手で自分の太ももを叩けば、布越しのぺちぺちという音であっと言う間に口を噤んだ。


「隠さなくてもいいんです。師匠にだったらわたし、ぜーんぶ見せたっていいんですよ?」


「ですから、そのような甘言などに、私は屈しませんよ……」


 こんなに嫌らしい視線を向けておきながら、まだそんなこと言うんだ。


「ふーん、ほんとかなぁ……?」


 師匠の腰かけるベッドに、近寄っていく。

 スカートは膝上まで上げたまま、逃げられないうちに、その右隣に腰かけた。


「ちょっ、っと……」


 ぎしりとベッドの軋む音。焦りと期待の混ざった師匠の声。

 どちらも小さな音なのに、嫌にはっきりと耳まで届く。


 それらと、すぐ近くに香る師匠の匂いに押されるようにして、私は師匠の右肩へともたれ掛かる。


「ぁっ♡――い、いや、やめなさい我が弟子よ……こんなことは無駄だと」


「えいっ」


「ぁひぃっ♡♡」


 手握っただけでそんな反応するようじゃ、もう陥落寸前って言ってるようなものだと思いますよ、師匠。


「これをー、こうっ」


 そのまま、両手で握った師匠の右手を、わたしの太ももの上に置く。


「~~♡♡っ」


 すんごい顔しながら、師匠の身体が強張った。

 捲れる寸前までたくし上げられたスカートの上で、師匠の右手は石みたいにガチガチに固まって微動だにしない。


「……捲りたいですか?」


「っ」


「……直接見たいですか?」


「っっ」


「……直接、触りたいですか?」


「っっっ!」


 師匠はもう否定の言葉すら口に出来ず、うっかり欲望が決壊してしまわないように唇を引き結ぶだけ。

 その真っ赤になった顔や、どんどん熱くなっていく身体から分かる。

 次に口を開いた時が、師匠のしょうもない強がりが終わる時だ。


「師匠は、復讐がわたしたちを繋いでるって思ってるみたいですけど。そんな面倒くさい繋がり、もう捨てちゃいましょうよ」


 捨てる、という言葉に怯えてか、その肩がびくりと跳ねた。

 でもそのせいで、触れあった肩同士を擦りつけ合うみたいになって、こっちはさらにたかぶってきちゃう。

 ほんっと師匠ってば、わたしをその気にさせるのが上手なんだから。


「それから、新しい繋がりを作るんです」


 興奮とか、不安とか、期待とか、いろんなものが入り混じった師匠の心を安心させて、掴んで、掴まれて離れないように。

 耳元に唇を寄せて、囁く。


「師匠と弟子で。相思相愛で。それから――」



 ――カラダまで、繋がるような。



 わたしの愛情と欲望を、師匠の中に。


「師匠、好きです」


「っ」


「好き。好き」


「っっ」


「大好き」


「っっっ!」


「だーい好き」


「っ♡」


「ねぇ、師匠……ほんとに、大好きなんです」


「っ♡♡」


「師匠だって、わたしのこと、大好きでしょ?」


「わ――ぅ、ぅぅっ♡♡」


 さっきみたいに、反射的に私もと応えかけて、それでもまだギリギリで耐えた。

 無理やり結んだ口角は隠しようもないほどに上向いていて、赤い頬に潤んだ瞳と相まって今の師匠は、相当にだらしない表情をしているけど。

 そんな彼女が、愛おしくてしょうがない。


「ね、認めましょうよ?」


 愛おしいからこそ、耳元から絶え間なく送り込む愛情の、そのお返しが欲しくなる。


「わたしのことが大好きですって。何百年も前の復讐なんかより、今、わたしと愛し合うのが大事ですって」


 その甘い吐息で、わたしの心もくすぐってほしい。


「そう言ってくれたらわたし、師匠のしたいコト、して欲しいコト、なんだってしてあげますよ?」


 そしたらその分、またあなたに好きだって伝えて。


「それから、わたしが師匠にしたいコトも、ぜーんぶしちゃいます」


 その繰り返しで、わたしたちを繋げていきたい。


「ほら師匠、言ってくださいよ。『私は復讐よりも弟子と愛し合う方が大事です』って、ほら、ほら」


「ぅ、ぅぅ……!」


 あと一押し。

 強張ったままの師匠の手を誘って、自分の太ももを撫で擦る。


「このスカート、師匠に捲ってほしいなぁ……」


「ぁぅぅぅぅ……!!」


「ね、師匠、言お?」


「っっ♡、♡……!」


 もう一息。

 ねぇ、ほら師匠、早く触って。

 直接肌を、心の奥まで、触ってよ。


「言おうよぉ……」


「ふっ、♡、ふーっ……♡」


 ほら。


 ほらっ。


「ね、お願い、ししょぉ……」


「わ、私、私ぃ♡……!」


 ほらぁっ……♡



「……いっちゃえ♡」


「――♡♡っ!!、す、好きですっ♡♡、っだいしゅきぃっ♡♡♡――――っ……



 ――こうして、最強の魔女である師匠は復讐を諦め、代わりにわたしという師匠のことが大好きな恋人を手に入れて、末永く幸せに暮らしましたとさ。


 めでたし、めでたし。

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師匠が「貴女は復讐の為の道具なのです」とか言ってきたけどこの人どう見てもわたしのことめっちゃ好き にゃー @nyannnyannnyann

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