第4話 恐怖心

部活は早めに終わった。

上川がモップで床を磨いている最中、部長の木島栞里がやってきた。

「ねぇ、上川さん」

「なになに」

「大会近いから気をつけてね」

「なにを?」

「怪我よ。怪我」

「あー、もちろん。栞里も気をつけて」

「、、、」

「、、、それだけ?」

「そう。それだけ」

ニカッと笑う木島。八重歯が見える。

容姿も頭脳も素敵な彼女、少しだけ変なのは彼女の中身。誰も彼女の心が分からなかった。

そのせいで木島は変わり者と呼ばれているが上川はそうは感じていなかった。

なんとなく自分と同じ匂いを感じていた。

たまには変な事もしたくなるし言いたくなる。

チームメイトの笑い声が後ろで聞こえる。

彼女らは、変わり者の部長をいつも陰で話のネタにしていた。

「なにかあったらいいな」

「さすが部長、頼もしい」

栞里はいつも人の心配ばかり。陰口にも気付いてないんだろうなぁ、、

また聞こえる笑い声。

木島が向くと一斉に逃げるチームメイト。

べーっと舌を出す。


すっかり夕方、オレンジ色の空もどんどん暗くなる。

哲也と上川は並んで歩く。

「部活お疲れ様」

「哲也もなにか入れば?」

、、、名前で呼ばれた。おれはどうしようかな。。いいや、上川のままで。

「いいよ今更」

「空、綺麗じゃない?オレンジが眩しい」

、、、コロコロ話題が変わるな

「だね。眩しい」

2人揃って目を細める。

、、、聞いた方がいいかな。明らかにいじめられているよな。

触れてほしくないかも。ああ、、

、、どうしてこんなに悩んでるんだ。好きでもない相手に、、。

「いじわるされてんの?」

「え?」

なぜか口に出していた。

「部活見てて思った」

「、、、やっぱり気づいたかー」

「あからさまだし」

「可哀想だよね、栞里」

「栞里、、?ん?」

「いや、部長の事言ってるんでしょ?木島栞里」

木島さん、、?いや明らかにあれは上川に向けてのいじめだ。気づいてないのか。

「頭もいいし、顔もいいから、いじめの標的にされちゃうんだね」

標的にされているのは上川だ。どこまで鈍感なのか。

「ああ、、そうなんだ」

としか言えない。

富永の言う通りだ。いらない事をしてはいけない。気づいていないならそのままにしよう。

これが正解ではないのは分かる。

だけど不正解でもない。

「また明日」

「はーいじゃあね」

いつも寄るコンビニも、今日は気分じゃなかった。


家に帰って横になる。無気力で物みたいに動かない。しばらくしてインターホンが鳴った。

小夏が階段を駆け上がる。

「おにぃ。女の子がよんでるよ」

、、、疲れてるのに、、特になにもしてないけれど。

「今行く」

「なになに、いつの間に彼女つくったの」

「あー、、一応」

「なにそれ」

目を擦りながら玄関をあけた。

ぼやけた視界が徐々に鮮明になるが、ピントの合った人影は上川では無かった。

「あれ、、木島さん?」

「どうもこんにちは。いや、こんばんは」

「どうしたの」

「上川さんと何話してた?」

、、、なんでそんな事聞くんだ。

「色々」

「その色々を聞いてるんだけど」

「なにが知りたいの」

「、、、」

急に黙った。そんで睨んでくる、、体育館の時と同じだ。。きっと舌を出すぞ。

「べー」

ほら、、、たしかに変な人。富永が言ってたみたいに、変な人には変な男がつくのかな。

「べーって言われても、、」

「もう、いいや。帰る」

スタスタと立ち去る木島。

しがみつくように質問を投げた

「あのさ、上川の事なにか知ってるの?」

「、、、知ってる」

「教えてよ」

「無駄」

「無駄、、って」

「教えたところで、あなたは何もできない」

ムッとした。ムッとしたけど、、確かにそうかもしれない。

「というか自分で気づきなさい。彼氏さん」

今おれは彼氏だ。おれが気づかなきゃいけない。

「めんどくさい、、」

思わず声に出た。こういう事からは逃げてきたから。

「今なんて言った?」

「なんでもないよ。じゃ、さよなら」

玄関を閉める。

ニヤついている小夏。

「ねぇ、彼女さん可愛いじゃん」

「あの人は違う」

「なーんだ」

部屋に入ってしばらくしてから気づく。

、、、なにもできないか、、。

図星だからずっと残る。

朝が来てほしくない。

なんだか、、、少し怖い。

人を知るって、、、怖い。












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18 @zuki_zuki

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