第3話 威嚇

「パス!パス!」

いつになっても上川にボールは来ない。

「、、、」

哲也は体育館の外で見ているだけ。

、、、なんだか可哀想だな。

「なんだか可哀想だな」

思った事を口に出したのは富永だった。

哲也は慌てて振り返る。

「可哀想って?」

「いや、分かるっしょ。いじめっしょこれ」

「あぁ、、やっぱりそうかな」

彼女(一応)がいじめられてる。彼氏なら助けるよな、普通、、。

「助けるとか考えない方がいいよ」

、、、富永は心を読めるのか?

「いや、考えてないけど、、なんで?」

「第三者がちゃちゃいれて解決したの見た事無いし。余計な事しない方がいいっしょ」

富永ってこういう性格なんだ。あんまり話した事無かったから分からなかった。

「もしかしておれの事、薄情だと思ってる?」

「まさか。普通だよ」

「名前なんだっけ」

「田所だよ」

「苗字は知ってるよ。名前」

「哲也」

「てっちゃんさ、ここでなにしてたの?」

、、、てっちゃん?

「部活終わるの待ってる」

「あぁ、、、」

あぁ、、、ってなんだよ。あんまり詮索しないでほしいな。

「まさか待ってる人って、、、」

上川だろ?そう言われるかと思ったが、富永の口から出たのは意外な人物。

「木島さん?」

「えっ?」

「あれ。違うの」

木島はたしか女子バスケ部の部長だ。

なんで木島だと思ったんだろう。

「おれそんなに木島さんと仲良さげかな?」

「違う違う。木島さんだったらやめとけって言おうとしたんだよ」

「なんでさ」

「なんかなぁ、あいつ謎なんよ。リーダーシップあるっしょ、頭もいいっしょ、それなのに変な奴らとの噂ばっかりだから」

木島さんが、、全然知らなかった。

ボールが飛んできた。飛ばしたのは上川。

哲也がそれを拾う。

「もしあれだったら先に帰ってもいいよ」

「いいよ待ってる」

富永は少し驚いた様子だ。

「えぇ、上川?意外な人選っしょ」

上川は良い気分はしないようだ。たしかに言い方が悪い。

「はい?意外ってなに」

不機嫌そうに上川は言う。

「すまんすまん、てっちゃんの相手がまさか上川だとは。まぁ、木島さんよりはマシか」

「部長を悪く言わないでよ」

「ほらほら!上川!早く練習戻って!」

チームメイトが呼び戻す。

ボールを投げる哲也。上川は受け取って部活に戻る。

「おお、さすがカップル。息ぴったりっしょ」

茶化されるが、気にしない。

唯一気になるのは、さっきから木島がこっちを見てくる事だけ。

「木島の噂してるのがバレたのかもな」

「かもね、、、」

本当にそれだけだろうか。

木島の目はしっかりとおれたちを捕らえている。周りがスローになる。

何を訴えているのか。何を伝えたいのか。

木島は舌を出した。べーって。

、、、変な威嚇だ。

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