猫には触れないほうがいい
荼八
猫には触れないほうがいい
静かに雨戸を開ける 指すように冷たい風が吹く 実家に戻っても寝る前にタバコを吸う習慣は辞めることが出来なかった
ひと吸い ふた吸い 遠くからか細く高い猫の声が聴こえた み吸い し吸い また聴こえる先程より近づく ご吸い む吸い 足元か声がした
タバコを灰皿に入れ揉み消す しゃがみ猫を撫でる 「お前も寒いよなぁ 可哀想にお前さえも幸せに出来ねぇ俺だけどよ 今のご時世だからこそヒーローになれるのかもなぁ」「じゃぁお兄さんが世界を救う世界があるとしたら どう実現させてみたい?」「そうだなぁ 猫の手を借りるってのはこう言うことを言うのか?」「ちがうね でもお兄さんの思想は気に入ったかも知れない だから 見せて上げるよ お兄さんの思う世界を 僕の手を」頭から腰と撫で回していた手に猫の手が触れる
そこには 全て痛みと 苦しみと 憎悪 悪意 辛さ 全くもって 救いも 逃げ場も 何もかもを俺が背負った世界があった
一人の痛みが流れ込むと 次の人の苦しみが流れ込む それはまるで濁流そんなものではなかった どれだけ身を攀じろうが 喘ごうが お構い無しこの世の全てが生れ落ちるだけで味わう全てが36億人分の苦悩が頭を割るなんて甘いものじゃないものが僕を押し潰してそれでも僕は生きていた それがヒーローらしさだと言わんばかりであった
正直あんな発言はしない方が良いのだ
ただでさえ自分ですら解消できない 数多の苦しみや悲しみ やるせなさを抱えているのに 人を救うだのそんな言葉は偽善に過ぎない
つかの間もない 痛みに成れない 新しい 知らない 解らない 死にたい 死ねない 耐えれない
耐えれない 耐えれない 耐えれない 耐えれない 耐えれない 耐えれない 耐えれない 今を生きる人以外の歴史も混入し始める 熱く 寒く 小さい矛盾 大きな正義 個人疑念 集団的常識の弾圧 裏切 破裂 骨折 抉り 切り取られ 煮られ 焼かれ 磔
「どう?これがお兄さんの望むヒーローだよ」
「でもこれは まだ僕の力を貸しただけ 過程に過ぎないだよ」
「お兄さんはこれから 生きていく その中で目にするんだ お兄さん以外の人が全くもって苦しまない世界を それでもお兄さんは耐えれるの」
「きっと 動けるようになる日がくる きっと歩けるようになる日がくる きっと人と話せるようになる日がくる きっと愛してくれる人が現れる日がくる それでもお兄さんは耐えなきゃいけないんだ これは原罪なんかじゃない 無理なら今すぐやめた方がいい どうか自分を大切にして欲しいよ」
「そうかぁ お兄さんは優しいね それじゃぁ玄関も開けっ放しだから 頑張って閉めとくね 僕はもう寒くないし 幸せだよ いや苦しみがない世界なのだから 」
「幸せももうこの世界には存在しないのだけれどね」
猫には触れないほうがいい 荼八 @toya_jugo
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