向かいの猫の手、借りてみた。

はちこ

第1話

 念願だったカフェをオープンした。場所は昔ながらの商店街の一角。待ちゆく人々がほっと一息つける場所になれたらいいなと、インテリアなども落ち着いた色合いで統一。それほど広い店内ではないが、4人掛けのテーブル席が二席、そしてカウンター席がある。小ぶりだけれど、カラフルなお花も飾る。そして、毎日挽きたての豆にゆっくりとお湯を注ぎ、丁寧に珈琲をいれる。味だけでなく、香りも楽しんでもらいたいから。

 オープンから3か月弱、最初の頃はそれなりに集客出来たが、ここ最近は客足が思ったほど伸びていない。毎日店内を整え、丁寧に珈琲を入れ、お客様が来るのを待っているのに…

 しょうがないので、商店街をふらっと歩く時間が増えた。一番の顔なじみは、斜め向かいの和菓子屋のおばあちゃん。いつも店先にちょこんと座っていて、たまに居眠りしている。傍らには飼い猫の、三毛もちょこんと座っている。このおばあちゃんは、私を見かけると必ず声をかけてくれ、串団子を一本くれるのだ。


「このお団子、もっておゆき。」

「ありがとうございます、いつも。」

「最近、客入りはどうだい?よかったら、この三毛も連れていくかい?」

「え?三毛ですか?」

「そうそう、こう見えてもこの三毛はうちの招き猫なんだよ。」

「招き猫?」

「まぁ、ものは試しに、しばらく飼ってみて。」


 私は半信半疑ではあったものの、三毛を抱き上げ、店に連れ帰った。大人しい猫で、店内の出窓部分に居場所を定めると、日向ぼっこしながら、おばあちゃんのように居眠りし始めた。不思議なことに、その日の午後、さっそくお客さんがやってきた。猫好きの人のようで、窓の側で日向ぼっこしている三毛が気になって、店内へ誘われるように入ってきたのだ。不思議な縁はその後も続き、その猫好きのお客さんから紹介されたといって、別のお客さんも来てくれるようになった。どうやら、この三毛がうとうと眠る姿に癒されるらしい。飲食店だし、動物はどうかな、という私の心配をよそに、猫好きの人に好まれ、利用されるようになってきた。

 猫は良く眠る姿から、『寝る子』が変化し、「ねこ」と呼ばれるようになったという説もある。特にこの三毛はよく眠り、撫でられても嫌がることもなく、人々に癒しを提供し続けている。そんな日々が続き、お店が少しずつ賑わい始めたので、和菓子屋のおばあちゃんに三毛を返しにいった。そしたら、おばあちゃんから思ってもない提案があったのだ。


「実はね、そろそろ和菓子屋を畳もうと思っているの。それでね、この商店街の人たちに数日ずつ、この三毛をレンタルしてたのよ。どうやら、あなたのお店が一番、相性が良かったみたい。出来れば、この三毛、もらってくれない?私も歳だし、そろそろお世話も大変になりそうでね。」

「私で良ければ、ぜひ!」


 そうして、今、私は三毛を飼っている。でも実際には、三毛のおかげで私が食べてゆけるのだ。

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