暗殺猫アレク!証拠は残さない!

イノリ

殺人には猫の手を

 やあみんな、俺はどこにでもいる普通の殺人鬼☆

 つい昨日、俺を散々顎で使ってくれやがったうざったい資産家をぶっ殺したんだ☆


 いや、それにしても苦労した。

 なにせあの資産家は用心深い性格で、どんな人物でも自分の付近には極力近づけようとしない。その性格が災いしてボディーガードも付けていないが、それと引き換えに極めて侵入困難な場所に引き籠もって生活しているため、殺す隙はなかなかない。

 だが、俺は成し遂げた。――いや、正確に言えば、成し遂げたのは俺じゃない。


 俺の飼い猫、アレクがやったんだ。

 アレクは賢い猫だ。俺が教え込んだことは、なんでもすぐに吸収する。

 それを利用して、俺はアレクを小さな暗殺者として訓練した。狭い隙間を通り抜け、気づかれずに行動し、的確に相手を刺し貫いて帰還する暗殺者。

 もはやスパイだな。こいつならアメリカの……なんだったか、あの、警備が厳重なことで有名なヤツ。

 ああそうだ、ペンデュラムだ!(※ペンタゴンです)(そもそもペンタゴンが評価されているのはサイバーセキュリティです)

 あそこにも、今のアレクなら侵入できるだろう。


 アレクに殺人の術を教え込むという着想を得たのは、昔あったとある実験を知ったからだ。

 その実験とは、動物にベルを鳴らしながら餌を与えることを繰り返すと、ベルを鳴らしただけで、動物が唾液を出すようになるという事実を確かめるもの。

 あの有名な、シュレディンガーの猫ってヤツだな。(※パブロフの犬です)

 これを使って、資産家の匂いを嗅いだら近くにある物体をナイフで刺す、という行為を刷り込んだ。


 そうして、待ちに待った決行日。

 資産家の家の庭にアレクを放り込んで、待つこと五時間。アレクは無事、資産家の暗殺を成功させて帰って来た。

 もちろん大喜びで宴を開いたさ。

 高級猫缶を開けてアレクに振る舞った後、思いっきりモフモフして可愛がってやった。

 いや、昨日は最高だった。







 猫を使った殺人。俺が手を汚したという証拠は一切ない。

 ははは! ざまあみろ! ははははははは!


 ――ピンポーン


「ああ?」


 ふと、インターホンが鳴った。

 なんだ、警察の奴ら、また来たのか。今朝も、聞き込みとか言ってウチまで来やがった。だが、俺がやったという証拠はどこにもないんだ。

 アレクも返り血の一滴すら浴びずに帰って来たし、訓練通りに行動していたなら監視カメラにも映っていないはずだ。まさに完璧。


「あーはいはい、警察の人たち。ご苦労様ですほんと」


 くそっ、なんで俺がこんなへりくだんなきゃいけねぇんだ。

 ま、真相に気づいてない馬鹿を見るのは心地いいし、寛大な心で許してやろうじゃねぇか!

 よう間抜けども、何しに来やがったんだ? はははははは!


「××さん。あなたに逮捕状が出ています。署まで同行を願います」

「は?」


 ガチャン。

 俺は手錠をはめられ、ポリ公の車に押し込められ、牢屋にぶち込まれた。

 なぜ、なぜだ……!? なぜ俺の犯行だと……!?





 後日、俺はポリ公の馬鹿にしきった声を聞かされた。


「五時間も猫をほったらかしにしておいて、粗相もしないと思ったんですか?」


 ――ちくしょう!

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