第66話 遥か遠くより



 「遺跡発掘団から王に申し上げることがあるそうです」


この王国では

この国の歴史を知るために

遺跡調査が行われている。


「構わぬ、通せ」


とこの国の王バイロンが言う。


王の間へ、巨大な石碑が運ばれる。


「石碑の解読が終わりました」


と遺跡発掘団の古代文字解読担当の者が言う。


「聞かせろ」


「はい、ただ、少々不思議な記述があることを前もってお伝え致したく存じます」


「よかろう、申せ」


「時代が前後するような記述がございます」


「構わぬ、読んで聞かせろ」


王は玉座の横に立て掛けてある剣

柄には金銀宝石などの装飾のある美しい剣を

数年も前からの癖で

撫でながら言う。


「では」


と短い前置きをして担当のものが読み始める。


「この国の始まりに風が吹く、風は殿閣を守り、止まること無し。怪しき者既に去り、風が止まること有らば、再び現れる。後世に王となる者へ、あやかしの者、国を問わず現れる。その故は、妖は空と大地、海にあるのではなく、人の心にあり。ならば、民乱れる時、王都滅びの道を行く。新生カロッサ王国初代王ロルカ、同じく王妃パステルナーク。」


暫くの間

沈黙の時間があった。


「この国の始まりは、カロッサという国であったのか」


古代文字解読係は床に平伏したままである。


「その国の王の名は、真にロルカという名であったのか」


文字解読係は尚も平伏したまま微動だにしない。


「なんという偶然だ」


そして解読係は平伏したまま言う、


「恐れながら、真の不思議は石板の裏に記されております」


「何んと」


王に促され解読係がゆっくりと伝えようとする。


既に王は信じ難い報告に立ち上がっており

身体は微妙に左右に揺れている。


係の者が読み上げる。


「突然の失踪をお許しください。この国の繁栄を遠い過去より祈っております。ネルーダ王国、国王、バイロン王へ。ネルーダ王国元親衛隊隊長ロルカ。」


その言葉を聞き

この国の王は玉座にいつも立て掛けてある

美しい剣へとゆっくり振り返り

剣に問いかけるように言う。


「ロルカ、我が先祖であったのか?」


剣は美しい装飾を光らせたまま

いつまでも沈黙を守り続けている。


  第1章 終わり

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闇を斬る音は無し 織風 羊 @orikaze

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