刃のない料理人
床下
第1話その罪人後の最強の料理人
彼は夢を見ていた。手には血濡れの包丁、倒れる男性、鳴り響くサイレンの音、誰もが見ても彼が犯人とわかる状況だった。だが彼には後悔というものはなかった。
彼はそのままビルから飛び降りた。最後に聞いたのは、地面に鈍く鳴り響く衝撃音。彼は死んだのだ。
目が覚めるとそこは大きな聖堂のような広場だった。周りには甲冑をきた人々が俺を囲うようにたっていた目を覚まして起き上がると驚くように持っていた武器を俺へ向けた。そしてそのうちの一人が口を開けた。
「お、おい貴様は何者だ!急に現れやがって!」
そう怒号を浴びせてきた彼に俺は困惑していた。
「こちらが聞きたいここはどこだ。」
「とぼけるな!ではその血濡れの姿はなんだ!」
そう言われ自分の姿を見ると所々返り血のような物がついていた。これには記憶がある。だがここでやったわけではないのだ。
「これは……たしかに俺がやったやつの返り血だ。だがここでやっていない。何故ここに俺はいるんだ。」
「知るか!早くはけ!」
同じような会話二、三回していると囲まれてる人達の後ろから声がした。
「もう良いさっきから同じような事の繰り返しではないか。」
「で、ですが……」
「いいと私が言ってるじゃろ?どけ。」
そういうと左右に一気に人が引き、ある女の子が現れた。白髪のロングヘアで目が赤色に輝いている。そんな色白の女の子だった。
「さて先程からの話聞いておったがお互いに状況が分からないと私は見ておる間違いないか?」
「そちらが知らなければ俺は知らない。」
「そうか……ふむではこうしようそなたと私たちで情報を交換しよう。それで何かわかるかも知れぬ。」
そうすると一人先程の甲冑の人達とはさらにゴツく纏っている人が止めるように言ってきた
「王女様!?そんなどこの馬の骨かわからぬ物を」
「うるさい。指図をするな。私を誰とみている。」
彼を軽く睨むと、すぐさま膝を突き謝罪をした。
「も、申し訳ございません。」
どうやら彼女はこの国の王女らしい。
「それで?どうだ?」
「いいだろう。現状を俺も知りたいしな。」
「うむ。ではまずその血濡れの状態を良くせねばな湯船へ案内しろ。その後に私の部屋に来るように。本日は解散」
「「「はっ!」」」
一斉に声を出し各々が持ち場らしき場所へ消えてった。
すると一人のメイドのような格好をした女性が話しかけてきた。
「さて私はここの使いのカチャと申します。」
物静かで感情を表情に出さない彼女はこの状況下ではありがたかった。
「どうも」
短く返事をすると浴槽のある部屋へ案内してくれた。
「こちらになります。代わりの服などは中に用意してありますのでそちらをお使いください。着替え終わったら再度出口の方まで出ていただければわたくしが案内致します。」
そう言って軽く礼をし部屋を出ていった。
そのあとは服を脱ぎ体を洗った。体を洗ってるとあの時の記憶を思い出す……復讐心に駆られ復讐を果たしその後に見た景色……そんなことを考えながら入浴を済ませ、置いてある着替えを着て、部屋の外に出た
外に出るとカチャさんが待っていた。
「では王女様のお部屋に」
そう言って先頭を歩いてる彼女の後ろを俺は歩いた。
コンコンそうノックをしカチャさんが名乗った。
「失礼致します。カチャです。」
「ん。」
短い返事をもらいカチャさんがドアを開けると、先程の王女様らしい格好ではなく女中のような格好だった。
「なんだ?あぁこの格好か楽で良いじゃろ。ほれ座れ。」
そう言われ対面する席に座った。
「それで、そなたは何者か。」
「俺は
「では調次。私の名はジーヌ・トーラというトーラと呼ぶが良い。」
「あぁわかったトーラ」
彼女の承諾を得て名前で読んだ。
「して、そなたはどこの国のものか。」
「そこについてひとつ聞きたい。ここの星の名前は地球か?」
「?いやここの星の名前はイーティアという。」
やはりか……どうやら俺は異世界に来たらしい
「俺の国は日本。そして星の名は地球。おそらく異世界からきたと思われる。」
「なんだと!?異世界か!つまりそなたは異世界の料理人って事でいいのか!?」
机を大きく叩き前のめりに彼女は聞いてきた。
「あ、あぁそうだ。」
「ではでは!そなたには料理をしてもらおう!それでそなたが料理人かどうか私が食して見てやる。」
目を輝かせながらいう言葉には明らかな食べたいという欲が見えた。
「もしわけないが無理だな。」
そういうと先程までのキラキラした目が冷徹な目に変わった。
「そなたの素性をわからせる事だぞ?無理と申すか。もしや嘘ではないだろうな?」
「だから言っただろう。俺は元なんだ。もう包丁が持てない。」
「そなたにはもてる腕があるだろ?」
「物理的に持てないわけじゃない。精神的に持てないんだ。持つと手が震える。」
すると再度ノックする音がした。
「よい」
彼女の許しを経てカチャさんが入ってきた。
「お召し物を洗う途中こんな物が出てきたのでお渡しをと思い」
そうして渡されたのはメモ帳とペンだった。
「それは?」
彼女が聞くと俺は答えた。
「これはレシピ帳ですそれと書くペンですね。」
「ほーうレシピ帳か随分と分厚いんだな。」
5〜6センチの分厚さがあるメモ帳を見て彼女は言った。
「まぁ昔から使ってますからね……」
そう言って懐かしいと思いながら一枚めくり(玉ねぎをアッシェ〔微塵切り〕)と書いてある一文をなぞった。
するとその一文が光俺とトーラの目の前に食材が出てきた。
目の前にはアッシェされた玉ねぎが机に置かれた。
「なんだ!?そなたの魔法か?」
ん?まてここには魔法が存在するのか?現状に困惑しながら俺は彼女に聞いた。
「待て待て。もしかして魔法があるのか?」
「そなたの世界ではないのか?」
「あぁない。」
「ではステータスもわからないということか。取り敢えずこの食材はひとまず置いておこう。」
「あ、あぁ」
目の前に散乱している玉ねぎを置いて話を続けた。
「まぁ思うだけでもいいが最初はイメージしやすいように言葉にして言おう。ステータスオープンと念じながら言ってみろ」
言われた通り俺は声に出しながら念じた。
「ステータスオープン。」
すると目の前に表みたいな表示がずらっと並んだ。
名前 切神 調次
歳 25歳
称号 罪人の料理人
ステータス
俊敏 100
体力 120
筋力 100
魔力 0
知力 120
防力 20
スキル
なし
ユニークスキル
〔出現のレシピ帳〕〔捌きの刃〕
俺は気になりこの出現のレシピ帳の詳細を見た。
〔出現のレシピ帳〕
食材とされる物をレシピ帳の記載通りに物質化し魔力を付与する(ただし1時間のみ)。記載されている手順を踏めば踏むほど付与される魔力付与量は増える。
俺は驚いた。つまり包丁を使わなくても食材を求む形で出すことができるのだ。
それからステータスのことについて聞いた。一般的に全ステータス50前後で、生まれその後の鍛錬や魔法の使用回数でステータスは伸びるらしい。
成人男性でおよそ100が平民の平均で貴族になると特に魔力のが大きく伸びるらしい。
減ったステータスなどは、体を休めることや魔法によって回復するようだ。
スキルについては基本的な五大要素(火 水 風 土 雷)を生まれ持って得るらしい。そちらも使用頻度や理解度、鍛練を経て伸びていくそうだ。
魔力を持たない上スキルも何もない俺は一切の使用ができないそうだ。
ユニークスキルは稀にもって生まれる先天的な物らしい。個人様々な能力があり、大抵が強力なスキルだそうだ。
スキルは使用すると詳細が見れるようになってるようで、捌きの刃はまだ見ることが出来なかった。
一通り話を聞くとトーラは俺のユニークスキルについて聞いてきた。
「それで、今のはそなたの魔法か?」
「みたいだな。どうやらこのレシピ帳に書いてある食材をレシピ帳通りの状態で出すことができるらしい。」
魔力付与については黙った。
「ん?つまりそなたは料理ができるのではないか?」
「あぁそういうことになる。」
「ふむそうかそうか」
すると彼女は再度目を輝かせ懇願してきた。
「じゃあ今すぐ作ってくれ!異世界の料理というやつを!ぜひ食べてみたい!」
そう喜ぶ姿はまるで子供のようだった。
「わかった。厨房に案内してくれ。」
「よしわかった。案内しよう。」
そうするとトーラが立ち上がりドアを開けた。
「トーラが案内するのか?」
「なんだ?おかしいか?」
「姫さま直々に案内するのかと思ってな」
「そなたの料理がみたいからに決まっとろう。はよせい」
そう急かされ俺は彼女について行った。
調理場に着くとコの字型のキッチンがあった。一通り調理器具などをみた後俺は手を洗いレシピ帳を開いた。
俺は指でなぞりつつ食材を出していった。
まず玉ねぎ、にんじん、ポロネギをスライス(薄切り)の状態で出現させた。
オーブンには仔牛の筋や骨、端材を入れた。
焼いている間に俺は、先程の香味野菜を塩胡椒炒めた。
この時に頭の中で音がした。
「出現のレシピ帳の制限能力が解放されました。」 すぐに詳細を見た。
すると新たに能力が追加されていた
――――――――――――――――――――――――――――
〔出現のレシピ帳〕
・食材とされる物をレシピ帳の記載通りに物質化し魔力を付与する。記載されている手順を踏めば踏むほど付与される魔力量は増える。
・時間部分をなぞると調理時間を短縮することができる〔ただし1時間につきランダムでステータスから2ポイント失う。〕これを使用した場合獲得付与PTの減少の対象にならない。
――――――――――――――――――――――――――――
俺はすぐさまレシピを変えた。
焼いてる香味野菜(ミルポワ)を鍋に移しトマトソースを入れ少し炒め、焼き上がった子牛の端材を入れワインを入れ大量の水を入れた。
最後にポロネギの頭、セロリの葉、タイム、を紐で縛り(ブーケガルニ)を入れ、そして10時間煮込むをなぞった。
すると体からごっそりと何かが抜けるような脱力感を感じた。
ステータスを見ると
ステータス
俊敏 100
体力 100
筋力 100
魔力 0
知力 120
防力 20
体力が20減っていた。
どうやらこれがランダムでステータスポイントを持っていくということらしい。
鍋を見ると煮詰まったベースのソース(フォン)が出来上がっていた。
これを、濾して使い先ほどの煮込むまでの工程を再度行いベースソース(フォン)を入れ指で10時間を再度なぞった。
再度味わう脱力感。俺はこれを4回おこなった
ステータスを見ると色々なものが減っていた。
ステータス
俊敏 80
体力 100
筋力 60
魔力 0
知力 120
防力 0
防力がもはやゼロになっていた。
普段重く感じない鍋も重く感じるようになっている。
そんな姿をトーラは驚愕した顔で見ていた
俺はそんなことお構いなしに調理を続けた。
次に仔牛の骨などを焼いた際に出た油を鍋に入れ小麦粉を入れた。濃い茶色になるまで混ぜながら火にかける。すると、どろどろとした甘い匂いのする液体ができた。これがとろみとコクを生み出すベースのブラウンルーだ。
それを先ほどのソースと混ぜた。
ブロック状のランプ肉(もも肉)を出し表面を焼いた。
再度香味野菜を炒めトマトソースを入れ炒め、赤ワインを入れた。アルコールを飛ばし先ほどソースを入れた。
そのあと先ほどのランプ肉を入れソースが半分になるまで煮詰めた。
最後に生クリーム、チョコ、バターを入れデミグラスソースの完成だ。
あとは卵をボールに割り入れ生クリーム、塩、ナツメグを適量入れフライパンで半熟に焼き上げた。
それをご飯の上に乗っけて上から先ほどのデミグラスを垂らし完成だ。
部屋の中は甘く芳醇なワインのような香りでいっぱいになった。
トーラ唖然と涎を垂らしながら見ていた。
「何をしておるかまったく分からん。それとお主大丈夫か?ダメージを受けてるように見えたが……」
「まぁ大丈夫です。」
明らかに大丈夫ではないが休めば治るなら平気だ。
料理を見ると下に何か書いてあった。
〔デミグラスソースがけオムライス。 魔力増強量20倍。〕
驚愕した。これを食べるだけで一桁も魔力量が上がるのだ。
そんなことを考えるとトーラがソワソワした様子でこちらを見ていた。
「そ、それで食って良いのか!?」
「毒味とかしなくていいのか?」
「よい!私にはユニークスキルの審判の目がある!相手の悪意なら即気づく!」
「わ、わかった…食っていいぞ」
勢いよく言われた俺は食べることを許可した。すると素早く彼女は口に入れた
「…………うぅまぁ……」
してはいけないような顔をしながら彼女は言った。
「この中で広がる濃厚な甘い香り!だが奥残る少しの酸味が味を引き締めておる!そして全て一緒に食うと次の一口が待ち遠しくなる!んんんたまらん!」
「料理人として嬉しい言葉だな。」
いつぶりだろうかこんなことを言われたのは……
そんな気持ちに浸っていると、トーラが叫び出した。
「どーいうことだ!?」
「どうした!?何か不味かったか!?」
「違う!これはうますぎる!そこじゃなく私の魔力量が20倍近く上がっておる!」
「なんだそのことか……やはりそうなるのか」
「そうなるかって知っておったのか!?」
「まぁスキルの詳細に書いてあったからな本当か疑ったがどうやら本当のようだな」
「おぬしこれがどういうことかわかっておるのか!?」
「多少なでもやはり凄いことなのか?」
「当たり前だ!魔力を回復できる最上級の人でも200が限界だ!それを20倍なんて!?」
「いや今回は例外だ。このスキルは手順をきちんと踏めば踏むほど効果が大きくなる。今回作ったのは本来数日かかる料理だ。」
「じゃあ何故ちゃんと手順を踏んでないのにこんなに倍率が出ておる。」
そう言われ俺は能力が解放された出現のレシピ帳を説明した。
「はぁ……もう驚かん。して、そなたはこの先いく当てはあるのか?」
「ないな。今の反応見る限りのらりくらり料理を提供するわけにもいかなそうだしな。」
「そうじゃろな。輩に見つかったら捕まって無慈悲に料理作らさられるじゃろう。」
そして彼女はこちらを見つめだし
「どうじゃ?私の専属料理人にならんか?我らなら能力も知っとるしそなたも気兼ねに料理も作れるじゃろ。それに……」
「そなたといれば美味いものが食えるんじゃろ!?是非お願いしたい!」
と勢いよく土下座をした。ほんとに王女なのだろうか。
「わ、わかった。だから土下座はやめてくれ仮にも王女だろあんた。」
「お?そうかそうかそれはありがたい!」
とさっと席へ戻った彼女は満面の笑みだった。
「して、疑問に思ったのだがこちらの世界の食材を使って料理はできないのか?同じような物もあったのじゃが」
同じような物……そこに疑問を持った俺は聞いた。
「この世界にも似たものがあるのか?」
「おおーあるぞ」
とどこか倉庫らしいところに向かい戻ってきた彼女の手にはトマトに似たものがあった。
「これは?」
「トトマっていう物だ。よく料理で使われるのだがどうだろう?」
「そのまま食べれるか?」
「ああ食べれるぞ」
それ聞き俺はかじりついた。
食べてみるとまんま地球のトマト同じ味がした。すると頭の中でまた音がした。
「出現のレシピ帳の制限能力が解放されました。」
俺は詳細を見た
――――――――――――――――――――――――――――
〔出現のレシピ帳〕
・食材とされる物をレシピ帳の記載通りに物質化し魔力を付与する。記載されている手順を踏めば踏むほど付与される魔力量は増える。
・時間部分をなぞると調理時間を短縮することができる〔ただし1時間につきランダムでステータスから2ポイント失う。〕これを使用した場合獲得付与PTの減少の対象にならない。
・この世界の食べ物のみレシピに新しく記載しレシピを作ることができる(ただし体に摂取したことのある食材のみ。)
この世界の食材で作った料理の場合付与される能力がランダムで決まる。(一度能力が決まった料理は同じ能力が付与される)
――――――――――――――――――――――――――
どうやらこの世界の食材を使えば新しくレシピを作れるらしい。
「新しく能力が追加された」
「なんじゃまたか」
俺は詳細を説明した。
「つまりそなたはこの世界の食材を食べ、料理していけば、ステータスを大幅に上昇させることのできる物を生産できるということか?」
「そういうことだな。」
「ますます一人で出ない方がよいな。」
「あぁ俺もそう思う。」
「では、私の提案に乗るということで良いか?」
「あぁそう思ってくれて構わない。」
「そうかそうか!それではよろしく頼むぞ!」
そう言って握手を求めてきた彼女の手を俺は握り返した。
「よろしく。」
「うむ!では今日はもう疲れたであろう部屋に戻って休むが良い!」
「あぁそうだな。」
そう言って彼は部屋を出て自分の寝床へ帰った。
誰もいないトーラの部屋。
「ふむ。いるのだろう?カチャ。」
そう言って後ろ振り向かず喋る彼女の後ろから出てきたのはカチャだった。
「ふふっさすがお気づきですね。」
「大体予想はしておった。それでどう思う。」
「彼ですか?そうですねぇ…国としては今すぐ殺すべきでしょう。他に渡れば世界が滅びかねません。」
「国としてはでない。」
「私としては保護ですかね。彼は何かこの世界の変化をもたらしそうです。」
「同意見だ。はぁ流石姉妹というべきなのかの」
「そうだね。トーラ。」
そう二人は数年ぶりに姉妹で会話をした。
彼は知らない。もう一つのスキル捌きの刃が世界を揺るがす事を。
彼は知らない。彼女らにとって自分がどんな存在になるかを
彼は知らない。自分の罪と向き合う時が来ることを。
あいつは知っている。自分を殺した奴と同じ世界にいることを。
「僕は忘れない。君という存在を。」
彼は暗い暗いあるところの底でそっと呟いた。
続く?
刃のない料理人 床下 @yukasitano_kokorozasi
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