第28話 西の地へ行く
「まさか
美少年シャルルは笑いをこらえている、いや笑っている。
「俺は何もしていない……」
唇をタオルで拭い、秒でいつもの
「ホント、助かりましたよ、九十九さん」
素直に喜ぶ
「一樺は何も見なかった―いいな」
妖しい碧眼でキラッとさせ一樺を見ようとするので、素早く視線を合わせないようにした。
「分かったから、双葉の時みたいに記憶消す妖狐の力を使わないで」
「……」
「それにしても、あの由志郎って男は莫迦だニャー」
美少年シャルルは道端で拾ったチーズを食べながら話す。
「どうして?」
「いくら
「由志郎さんがわたしを? まさかぁ~」
「鈍感か……ふう。いいんだ、独り言。僕は九十九さんを応援しているのさ」
***
「ところで、九十九さんのお母さまはどこにいらっしゃるの?」
「うーん。今も退魔師に追われている身だから、九十九さんしかわからないニャー。今回は〈西の地〉に行くんだっけ?」
(退魔師? 追われている身……?)
「大変ねぇ」
「一樺、分からなさすぎて、思考停止したニャ?」
「いいですか、わたし、約一ケ月前まで、普通の女子高生だったんですよ。それが狐や猫にあって、色々、混乱しているの」
「動物に会ったみたいな言い方しないで。狭間に簡単に入れる時点で普通の女子高生とは思えないニャー」
「!」
(そうだ、なんでわたし、狭間に入れるの?)
電車は歴史ある古い街並み〈西の地〉、帝が住まう帝都に到着した。駅からしばらく山の方に歩くと原生林の森の奥に厳かな雰囲気の神社がある。木霊もたくさんいて静かだ。階段の脇には灯篭が並び、苔で覆われた階段を上がると、
「この辺は、パワースポットだから、親がいそうだよな―」
九十九は母親を探そうとしているのに、浮かない顔をしていた。
「あまり楽しそうじゃないのね」
「九十九さんの母親は千年生きる金毛九尾の妖狐。つまり狐だ。追われている身だから、九十九さんを産み、育てられず人間に預けたと言っていたらしいけど、実際どうなのかニャー」
「……」
「それに母親は大昔、日ノ国の帝をたぶらかした九尾の妖狐、伝説の悪女と言われている。そのせいで、九十九さんは大の女嫌いになったニャー」
「ええっ。授業で習ったわ。でもあの人って退治されたって、確か石になったとか?」
「はぁ。あいつは大妖怪中の大妖怪だ。簡単に死ぬわけがないだろ。今頃、聖女のフリをして男をたぶらかし、どっかに潜んでいるさ」
不機嫌そうに九十九はいう。
「そう言えば、聞きたかったんですけど、九十九さんは恋人のそよさんのことが忘れられなくて、狭間にいるのでしょう? それでどうしてわたしに求婚って、ずっとそよさんを想っていたらいいじゃないですか」
九十九は歩いていていたが、一瞬、ピタリと止まって、一樺をキッと睨む。
「一樺は俺に一生、独り身でいろっていうのか? それに、そよとは恋人じゃない。俺の片思いだ。一方的に好きになって助けただけだ。一樺はそのー。五百年ぶりに、やっと好きになったっていうか―……」
「……は」
言い終わらないうちに九十九は我に返って
「は……い。そうですか……失礼しました~」
(なんか、照れる)
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次で最終回です。
見守っていただけたら嬉しいです( *´艸`)
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