第26話 人間界に支店

九十九つくもさん、今、なんとおっしゃいました?」


 現世うつしよ常世とこよ狭間はざま、狭間一丁目透ノ間すきのまでアンティークショップ雇われ店長である烏庵九十九からすあんつくもが、急に言い出したことを一樺いちかが戸惑いを隠せない。


「いやだな。一樺、いくら俺が年上だからって、嫁候補のきみに敬語で話しかけられると、がっかりするコンコン」

「あ、ごめんなさい。だってびっくりして」

「そんなに意外かな?」

「だってー。人間界にもアンティークショップの支店を出すなんて~どういう風の吹きまわしですか?」

「それは、俺が人間界に慣れるためのリハビリを兼ねている」

「でも、異界の常世国が運営する、雇われ店長なんでしょう? どうして支店なんか、お金はどうするんですか」

「大丈夫だニャー。九十九さんは異界の聖獣村の長である鳳凰ほうおうさまお墨付きで、支店運営資金は援助してもらえる」

 コタツテーブルで小魚を食べながら三毛猫シャルルが答える。


「聖獣村のおさがなんで資金出してくれるの? 何者?」

「偉い人、いや聖獣さまだよ。なんなら常世国の妖皇さまより偉いかも。とても強くて聖獣隊の創始者なんだぞ。鳳凰さまは、まさに日ノ国ひのくにの守護神だ」

 九十九は目を輝かせ一樺に語る。


「へぇ―……」

 一樺なま返事。

「お前、興味ないだろ。もういいよ。ささ、TeaTimeだぞ」

「ポンポコ……」

 よぼよぼ老狸がTeaTimeに反応した。

「なんだ、妖狸ようり……チッ。そら、お前にもおやつをやろう。一樺、名まえつけてやって」

「ええー。だってわたしとシャルルを誘拐した狸ですよ? ……でもよく見るとかわいい。タヌ吉さんでいいですか?」

「なんか聞いたことあるような名前だが、まあいいコンコン」


 カランコロン

「いらっしゃいませ。持ち主探します。アンティークショップ九十九です」

 営業スマイルで九十九はニッコリする。


「久しぶりねぇ。探したわよ」

 白いワンピースを着て腰まである銀色の長い髪をなびかせ、陶器のように真っ白な肌で、すらりとした女性が腕を組み扉の前で仁王立ちしていた。


「!」

 九十九は驚きおののき、サッと四畳半の部屋に隠れた。シャルルは急いで一樺にくっつく。

「いやーヤバい。あの人に見つかるなんて」

「シャルル、だれ?」

「あの人、あやかしの白蛇の眞白ましろさんだよ。社を所有している九十九さんの婚約者。相当、霊力あるよ」

「ええっ。九十九さんに婚約者いたの?」

「九尾の妖狐ともなるとそりゃーもう全国の妖たちが嫁になりたがるニャー。ちなみに九十九さんには許婚が百人いるニャー」

「百人⁉」

 一樺は九十九を胡乱げな目で見た。


「一樺、誤解しないでくれ、母親が勝手に決めた許婚だ。それに今は、一樺が嫁第一候補だ」

「第二もいるわけね?」

「いない。あやかしは一途な生き物だ。一人と決めたら、自動的に他の候補は破棄される。俺が結婚相手を決めずに逃げていたら、こんな百人まで膨れ上がった。だから一樺、安心して嫁に来てくれっ」

 店内の奥の四畳半部屋に隠れながら九十九の声だけが聞こえる。


「う、うーん……」

(変な求婚)


「ちょっとあなた、九十九の嫁第一候補なんですって?」

「は、はい、流れで」

 眞白の銀色の髪がするすると伸び、一樺の体に絡ませ、顔を近づけジロリと見たものの、ふ、とやさしい眼差しをむけた。

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