第25話 神使の契約

 ―白狐に籠愛されたそよが村人に殺され、村は廃れ人々は土地を捨てた。霊力を失った九十九は狭間にきた―。


「これが、俺が狭間はざまに来た理由だ……」

 九十九つくもは下を向き手で顔を覆った。

「……」

 一樺いちかは泣きながら、たまらず九十九の肩に手をおいて、やさしくなでた。


「九十九は悪くないニャー」

 三毛猫シャルルは呟く。

「……シャルルは知っていたのね?」

 手の甲でグイっと涙をふき一樺は聞く。

「僕は九十九さんの神使の白狐びゃっこ時代を知っていた。ときどき街で見かけていたんだ。その時は事情を知らなかったから、威張ってて傲慢で、女を惑わせておいて、女たちが諍いおこしてるのを愉しんでいるようで、嫌な奴だと思っていた。でも仲良くなったのは狭間で霊力のなくなった姿を見てから近づいたニャー」


 一樺は三毛猫シャルルをギュッと抱きしめた。


「ちょっと、一樺! 抱きしめる相手が違う~。九十九さんが禍々しい狐目で僕を見ているニャー」

「シャルル……。ずっと九十九さんのそばにいてくれたんだね。わたしからもお礼をいわせて。ありがとう」

「……僕が好きで九十九さんと一緒にいたんだ」

 照れながら三毛猫シャルルはいう。


「世のことわりとか、何が正しくて悪いかなんてわたしが偉そうに語れない。だけど九十九さんはただ好きな人を守りたかっただけでしょう。逆にそよさんを見捨てていたら軽蔑していたのかも。わたしは誰が何といおうと、九十九さんの味方だよ」

「でも契約は絶対なんだ、そこでは干渉しちゃいけない契約だった……。そよだって受け入れていたのに……。それにまた、俺は怨まれ、狙われて一樺に迷惑かけてしまうかも―。」

 うつむき辛そうな顔をする九十九。


「大丈夫です。わたしは気にしない。そんな時は受けて立つわ。本当に稲の害虫は九十九さんのせいなの? その村は遅かれ早かれ消滅していたと思う。誰かの犠牲の上での平和なんて、無理でしょう。九十九さんは死ねないあやかしなんだから、一体、何年、反省すればいいの? みそぎはもうすんだよ。胸を張って生きていこうよ!」


 一樺はポンと九十九の肩を叩きニコッと微笑む。それに応えるようにいつもの九十九に戻り言った。


「さすが、俺の嫁」

「いやまだ、返事してないし」

「ふっ……」

 三人で顔を見合わせ笑った。


 ***


「今日は遅くなるといけないので、帰るね。じゃあ、また来週バイトに来ます」

「ありがとう、また来週」


 一樺が家に帰ったあと、三毛猫シャルルは九十九にたずねる。

「あと、一樺に言い忘れていることあるよね?」

「んーコンコン、それについてはまた今度にでも、説明するとしよう」


「ポンポコ……」

 よぼよぼの老狸がコタツテーブルの隅に座る。先ほど、霊力を奪われた狸だ。

「んあ? なんだ妖狸の野郎、どら焼きでも欲しいのか?」

 どら焼きを妖狸の前に置き、九十九はメガネをかけ、常世国に報告書を書くため巻物を手に取り椅子に座る。シャルルは頬を膨らまし妖狸に近づいた。

「お前のせいで、しばらく猫のままだ。今日からきみが看板狸だ。なんなら店の前に立って客引きでもするかニャー? 商売繁盛で縁起いいよね」




 さて、今回は九十九さんの過去が明らかになりましたね。そろそろ最終回に向かってまとめようとしています。29話の予定です。もう少しだけお付き合いください。まとまるかな。



 Case6 妖狸がアンティークショップの看板狸になる


 ……つづく。


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