第21話 九十九の求婚の行方

 新学期始まる。先生が進路希望のプリントを配ったので、休憩時間に双葉は一樺いちかに聞く。


「一樺はどうするの? 結婚する? それとも働く?」

「えっと、就職……かな」

「そう? わたしも結婚するまで働こうかな~」


 双葉は前回、九十九つくもさんに駅で偶然会ったことは忘れているらしい。

 一樺は就職活動もせずアンティークショップ九十九に内定する。

(でも、就職先が住所が狭間はざまって先生には何て説明しよう)


 そ、それに……。九十九さん


 一樺さえよければ妖狐に嫁入りしてほしい―。



 ***



 家に帰ると、母はその後、とある宗教団体とは手を切り、精気を取り戻し、ご飯を作って一樺の帰りを待っていた。


「おかえり」

「ただいま」


 いい匂い。晩ご飯は、ハムとキュウリ多めのポテトサラダと、牛肉100%ハンバーグとブイヨンの香りが食欲そそるオニオンスープだ。


 母はあれから九十九さんが気に入ってしまい、このまま就職してもよさそうな感じだ。だが……。


「九十九さんって九尾の妖狐店長……すてきねぇ。また会いたいわ~。私、あの方のことを二十四時間ずっと考えていたい。幸せ……キャー‼ やだ~言っちゃった。これって恋なの? ねえ、一樺ぁ~教えて~」

 母は一樺の背中をバンバン叩く。

「はー父さん帰ってきて。ここに浮気女いますよ」


 母は九十九さんに手を握られ、碧眼で見つめられたので金髪狐男に恋してしまったよう。正直、自分の親のこんな顔を見たくなかった。


 二階の部屋に戻り、部屋着に着替えた。ベランダの窓からカリカリ音がする。カーテンを開けると、三毛猫シャルルがベランダにいた。


「シャルルじゃん。どうしたの?」

「いや、一樺に会いたくなって、三毛猫すがたで会いに来た。それに、九十九さん抜きで聞きたいことあるかと思って、相談にのるニャー」

「……そうです。九十九さんのことです」


(思い出すと恥ずかしくなった。だってアレ求婚だよね?)


「そうだろうと思った。職場が同じだしね、気まずいだろうから、何が聞きたいことある?」

「いつから九十九さん、わたしのことお嫁さんと考えていたの? それに常世国憲法で半獣(半妖)と人間の結婚は禁止されているって……なのにお嫁にってどういうこと?」


「その辺は九十九さんに聞くとして、一樺を好きなのは本当だニャー」

「ええーっ。そうなの? いつから?」

「おそらく、最初から」

「最初って、早くないですか? それに口悪かったし……」

「獣は三秒ほどで好きか嫌いか分かるニャー。口悪いのは、取り繕った自分じゃなくてありのままの自分を見せたかったとか?」

「ああ、なんか思い出してきた……動揺していたのは記憶の中で微かに……でも九十九さんは獣的な相性とかじゃなかったような―?」

「あまり、難しく考えなくていいニャー。嫌なら断ればいいんだし、妖狐だけに、立ち直りも獣並みに早いと思う」

「獣がどれくらい立ち直り早いかわからない」


 でも初めて会った時、何か言っていたな。


 ……結界を破った……きみが?


 ……分からぬ、そこがわからないんだ。ひょっとして君は―――。


(あれ、どういう意味?)

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