第16話 妖狐の好物
この前、
「今日はありがとう」
「どういたしまして」
不意に由志郎さんの顔が近づいてきた。
「!」
「えっと、なに?」
「なにが?」
「顔よけているし……いやなん?」
(たは―っ。無意識に避けていた。わたし正直だなぁ)
「そうじゃなくて、なんていうか、由志郎さんて、わたしのこと好きだっけ? 小さい頃から知っているけど」
「……別に嫌いじゃないし、結婚してもいいと思っているよ。昔から、いっちは知っているからさー。まったく知らない人とお見合いするよりか、いいと思っている―」
由志郎は先ほど顔をよけられたこともあり、一樺の顔もろくに見ず、ばつが悪そうに話す。
「疑問に思ったりしないの?」
「ん? うーん……。みんな同じ時期に結婚しているから、別に……。いっちは色々、考えすぎじゃないか?」
「……」
(そうだ、わたしのモヤモヤってなんだろう……その正体がわからないと前に進めない。考えすぎ? いやいや、絶対、答えを出さないといけない)
気まずい空気のまま、家に戻った。
ベランダのある六畳の一樺の部屋、ベッドでゴロゴロしていると、
「あっ……そっか」
私は結婚がしたくないんじゃない。もっとこう、自分の中で夢や理想があるみたい。そうだ、由志郎さんは、嫌いじゃない程度で、わたしを心底好きではないんだ。それで結婚するってどういうことだろう。長い人生だよ、一番、肝心
(……フツーって何だ? わたしは、わたしだ……)
***
先日の狭間通りで夏祭りがあったので、露店で
次回から、
それから、ごちゃごちゃっと置いていた家具を分別して、大量の時計は奥の壁一面に壁掛けして、年代物の椅子やテーブルも一か所に集め、チェストの上に蓄音機やアクセサリー、小物を置いて、ランプも間接照明として置いた。
「やったー。これで、人間界のお店のようなアンティークショップっぽくなってきました。これからわたし、もっと勉強して本格的にコーディネートしていきますね!」
ご機嫌の一樺はこの店の雇われ店長、
「なんですか?」
「俺の気持ちだ」
風呂敷の包みを広げると、どら焼きが大量に入っていた。
「???」
「九十九さん、そこは油揚げでしょうよ。鈍感な一樺もさすがに察しますよ」
店内の奥のコタツテーブルで三毛猫シャルルはこっそり話す。
「うるさいシャルル。俺は人間に育てられた
「好かれたいなら、一樺さんの欲しいものをあげるのが、モテる秘訣ですニャー。野良猫でもそれくらいしますよ」
「そうか……今まで人々に
「一体、今までどんな恋愛してきたのだニャー?」
「……過去は思い出したくない。シャルルだって俺のことを冷たい目で見ていたんだろ」
「……」
忌まわしいあの頃……。無知とはいえ、俺は最低な
それが「そよ」――だけどもう会えない。
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