第15話 恋する九尾の妖狐

「俺、はじめてだ。こんな気持ち……」


 九十九つくもは狭間の店内の奥の部屋で紅茶を飲みながら呟いた。

 三毛猫シャルルがコタツでごろごろしながらいう。


「おぬし、とうとう白状する気になったかニャー?」


「今まで、俺に群がる女を数多みてきたが、一樺いちかは違う、普通に会話もできて、仕事も一生懸命で、それに一緒にいて自然でいられるし、超絶モテるけど実はダメ俺にツッコミいれる所とか、すごく楽しい……す、好きかも」

 九十九つくもは顔が赤くなり、たまらず紅茶をガブっと飲み干す。


『恋バナですね~ボクも混ぜてほしい』


 ふわっとハンガーをすり抜けコタツに舞い降りた。

「着物くん、聞いていたのか……。まあ、良いだろう」

 九十九つくもはイヤそうだったが、しぶしぶ座らせた。


『それじゃあ、わたくしも~微力ながらアドバイスできますわョ』

 サラ人形も参戦しようとしたら

「あ、いま男子会なので……」とやんわり断られた。

「……」


「だから、妖狐の力でゲットすればいいニャー。一樺もまんざらでもなさそうだぞ。メンクイっぽいし」

 煮干しを食べ、手をペロペロなめながらシャルルはいう。

「そんな力を使ってまで落としたくない。でも、わからないんだ。俺、異常にモテるから口説いたことない、どうやって女子を口説くのだ⁉ どうしたら振り向いてくれる? 教えてくれっ」

 金髪イケメン碧眼狐男は情けない顔でシャルルに懇願する。


『若いですな……フッ』

「コンコン、べしゃり着物くんよりは若くないぞ、俺」

「僕は元・猫だから、猫時代からメス猫にモテモテ。口説いたことない。でも早くしないと一樺は他の奴と結婚しちゃうよ、ごくごく普通の人間とね」

 猫目で意地悪そうに笑う。


「!」


「そ、そうか、普通の人間……。俺、普通の人間じゃないな。半妖はんようだし、もうすでに差が出ている。民が認める皇族子御用達の聖獣隊の半獣ならまだしも、俺、人間界からしたら住所不定の狭間はざまに住んでいるし、あやかしでも社をもった妖狐じゃない」


『なにを恐れているのですか? 社はなくとも九尾きゅうび妖狐ようこさまは、立派な大妖怪です。堂々と告白なさってはいかがかな? 親に紹介しても恥ずかしくない出自ですぞ』

 着物くんは着物を大きく振って話す。

「だって、俺は……おおむかし、大罪を犯してしまった。一樺を好きになる資格なんてないのかもしれない……」

 九十九は少し翳のある顔をした。

「……」

 すると、シャルルは今まで見たことのないような目つきで言う。

「―でも、僕は、九十九さんが全盛期の白狐びゃっこ時代を僕は知っているよ。かつてあなたは稲荷神の神使しんしだった――」


『なんと! 九十九さまに白狐びゃっこ時代があったのですね⁉ しかもやしろを任されていた……すごい花形です―』

 着物くんは驚く。遮るようにシャルルはいう。

「あのころの九十九さんて、大妖怪で、モテて、目がギラギラして、俺様で、強くて、傲慢で、大っ嫌いだった」

「……」

 聞きたくないのか九十九の顔が引きつる。


「でも……今の九十九さんの方が好きだニャー」


 俯いていた九十九は顔を上げ少し表情が和らいだ。

「シャルル……ありがとう」

「それに、聖獣村の鳳凰ほうおうさまに何か言われなかった?」

「ああ、そうなんだが……でも……自信ないな。俺って一樺にとっては、顔だけの金髪妖狐男だ。」

『九十九さま、当たって砕けろ、ですぞ。その上でどのような道を選ぶかは一樺さん次第じゃないですかな?』

「着物くんもいいこと言う」

「九十九さんは恋愛初心者なの? 着物くんの言葉はフツーの内容だニャー」

 シャルルは深いため息をつく。

「それでも心に響いたよ。アドバイスありがとう。コンコン、お礼に着てあげる」

『!』


 九十九は着物くんを羽織った。

「驚いた、意外といいな。この着物しっくりくる」

『うう……本当に身に余る光栄でございます。恐悦至極の思いです。亡くなった職人さんもさぞ喜んでいることでしょう。くぅ~』


「質の良い付喪神つくもがみになったニャー。早速、半妖の呉服店に報告しよう。また店頭に並べるかもしれないよ!」

『今度こそ、売れたら本望でございます。お世話になりました!』


 さて、妖狐がとうとう告白しましたね。次の依頼は誰かな。


 Case4 おしゃべりな着物くん


 ……つづく。



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