第13話 狭間、夏祭り
お盆も過ぎた頃
「浴衣の着方がわからなくて遅くなりました。……おはようございます」
淡い水色と薄緑色のつるが伸び、朝露に濡れた朝顔が咲き、金魚が涼しげ泳ぐ爽やかな浴衣を照れながら一樺は着ていた。
「おはよう。一樺、かわいい、似合うニャー」
美少年シャルルがお揃いの浴衣を着て褒める。
「ありがとうシャルル、きみも似合っているよ」
「――シャルル、いつの間に一樺さんを呼び捨てにしているんだ? ズルいぞ」
少し、むくれた九十九も浴衣を着て店に出てきた。
「!」
「店長、さすが似合いますね~」
うちわを持って、一樺は素直にいう。
「九十九でいい――。あー……その、シャルルに先を越されたが、一樺、短い髪に浴衣がよく似合っているぞ。……かわいいと思う」
九十九は小さい声で言ってから、ササっと店の外に出た。
「あ、ありがとう……もういないや」
(あれ? 九十九さんも呼びすてに変わった。前より親しくなってきたってことかな?)
「祭りで飾ってある提灯お化けが……怖いです」
お祭りの屋台が並ぶ通路の上に提灯が吊るされているが、真ん中で破けて舌がベロンと長く伸びていた。おまけに一つ目だ、一樺はビビる。
(やっぱり、
「一樺、お化け屋敷あるよ。本物だから怖いぞ~。ろくろ首や一つ目小僧に雪女だよ。場合によっては魂を抜かれちゃうかもニャー。入ってみるか」
シャルルはしれッという。
「いい、遠慮しておくよ。シャルルも化け猫だからね?」
「よし、ここで露店を設置するぞ」
屋台から離れた、公園内のフリースペースを見つけ、九十九は場所を決めた。
シャルルは「僕は子供だから重いのを持つのは苦手」といって手伝いたくないのか、猫が足音立てずに歩くように、いつの間にかいなくなった。
九十九は荷台から、家具や雑貨を降ろす。長机を設置し、一樺はビニールシートをひいて、その上に簡単に雑貨を並べる。ミニテーブルにはアクセサリーや人形、古布、絨毯など飾って、その横に一樺が作った看板を置いた。
「ふう、このバザー用の看板、自信作なんだ! どう? 猫カフェにありそうな洒落た感じがしない?」
(千手観音のような尻尾の
「……」
そそくさと別の作業に入る九十九。
「??」
辺りを見渡すと、屋台も出ていて、綿あめ、お好み焼き、りんご飴、イカ焼き、スーパーボールすくいなど、人間界のお祭りと変わらなかった。九十九は着物くんをハンガーにかけていう。
「じゃ、着物くんに、お願いする」
『はぁーい。アンティークショップ
「九尾の狐だって! ご利益ありそう! しかもイケメンだって!」
半獣たちが、着物くんの声に反応して、露店に群がった。
「着物くん、客引き上手ね。大きい家具が売れて、忙しくなってきたわ」
一樺は感心する。
「左様、甲高い声って、こういう時に役に立つな」
「わたしも頑張らなくっちゃ! いらっしゃいませ~」
一樺も着物くんに負けじと声を張り上げた。
***
「……ふう、着物くん以外は、完売したね! お客様(半獣)にも喜んでもらえてよかった~。お金、
「コンコン、一樺も忙しいのに働いてくれて、ありがとう」
「いえ、バイト従業員ですから、これくらい当り前です」
ビニールシートを片付けていると九十九が近づく。
「今日は、何時までいれる?」
「そうですね、九時までなら大丈夫です」
「そうか―。夜に花火が上がるが、見るかい? 帰りは送るよ」
「わー花火、観たいです! 九十九さん、ありがとうございます」
一樺は笑顔で駆け寄った。
「よかった……」
九十九はふっと笑い、顔が少し赤くなったと思ったら、スッと
(ん? もしかして照れている? まさかねぇ。だって色妖狐男だし、気のせいか……)
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