第10話 瓶の中の手紙

 一樺いちかは休み明け、いつものように鳥居をくぐり、現世うつしよ常世とこよ狭間はざま、アンティークショップに行った。すると、店の外に家具を出している店長の烏庵九十九からすあんつくもを発見する。


「おはようございます。九十九さん。今、お掃除中ですか?」


「おはよう。一樺さん。今度、狭間はざまで夏祭りがあるんだ。それで、この前、一樺さんが言った、アイディアを生かそうと思って。良質な付喪神つくもがみつきの家具や雑貨を半獣・あやかし相手に露店で売り出すことにした」


「狭間で夏祭り……本当ですか? 素敵ですね」

 一樺はパッと目を輝かせた。

「じゃあ、わたし看板作りますね! 今度こそ大きく目立って、お洒落な化け猫と九尾きゅうび妖狐ようこのイラストを描きます」

 すると九十九は顔を曇らせる。

「たしかに目立つけど、別の意味で……。ええい、俺が傷つくじゃないかっ」

「?」


「――ところで、海坊主うみぼうず海人うみんちゅさんからもう一つの依頼で、瓶に入った手紙はどうなりました? まだ解決していませんでしたね」

 一樺はあれから気になっていた。九十九は小さなキッチンで優雅に紅茶を入れながらいう。


「……ああ、あれね。大した霊じゃなかったから、手紙は燃やしたぞ」

「ええっ。手紙を燃やして大丈夫だったの? 呪いとか、悪霊とかだったら大変じゃないですか」

 一樺は心配そうにいう。


「何を言う、俺、狭間に引きこもってはいるが、半妖にして、九尾もある大妖怪だぞ。ああ……ほら、海坊主の海人さんに調査報告書はもうすでに書いておいた。だから一樺は木霊こだまに、この巻物を渡してきてくれないか? 受付は透明で丸っこい物体の恥ずかしがり屋の精霊だ。木霊郵便局は狭間三丁目にある」

 九十九は店内の奥の部屋に置いてあった巻物を一樺に渡す。

「はい。行ってきます」

 一樺は巻物をしっかり握ってから、店をあとにした。


 美少年シャルルが一樺の後ろ姿を見送りながら、九十九を猫目でチラリと見ていう。

「瓶に入った手紙のこと、言わなくていいの? あの手紙の持ち主は……」

「ああ……」

「一樺さんに甘いな。やっぱり九十九さんは―」

「あーコンコン、さあシャルル、紅茶と、どら焼きどうぞ」



 ―――手紙に書かれた内容は


『警告! 港に住む女子たち。騙されないで! 船乗り男に気を付けて! 大ぼら吹き男! 詐欺師! 女の敵! 許すまじ! 見つけたら賞金差し上げます!』


「百年前なのに、凄まじい怨念のこもった悪霊手紙だったから、俺が苦労してやっとのことで燃やしたら瓶は割れてしまった。こわい、こわい、慌てて別の瓶に悪霊を封じ込めた。取り憑かれないうちに一樺さんに内緒で早く常世国とこよこくに瓶を発送しよう」

 九十九は思い出すだけで顔が蒼くなりブルブル震えた。


狐憑きつねつきが得意なあやかしなのに、怖がりだニャー」

 美少年シャルルは呆れた。


 さてさて、次はどんな依頼がくるかな。


 Case2 大ほら貝

 Case3 瓶の中の手紙


 ……つづく。

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