第7話 化け猫の好物
「九十九さんはお客さまにちゃんと話せるのに、なんでわたしには口悪いの?」
「シッ。一樺さんのひそひそ話、まる聞こえですよ」
「ところで、わたしにバイト代払うって言っていたけど、海坊主の海人さんの依頼を見た限り、金銭が発生していないようだけど、
「それは―……」
地獄耳の九十九がやってきて言った。
「ああ、一樺さん、説明していなくて悪かったね。俺の店は異界の
「はい。あーよかった―。なら社長じゃないね。雇われ店長?」
「コンコン、細かいことは聞くな。それより、もうすぐ人間界の高校は夏休みだけど、バイトに来てくれるかい?」
「わかりました」
***
家に帰って、一樺は6畳部屋のベッドでぬいぐるみをさわりながら寝転んで考えごとをする。
「うーん。進路か……」
高校卒業と同時にお見合いさせたい母。悲しいかな、勉強もフツーでスポーツもフツーでこれといってやりたいことがないわたし。
母はいう。
「とりあえずお見合いしてみれば? いい人かもしれないじゃなーい。やりたいことが見つかったとしても結婚後でもできるでしょう。いい人って早いもん勝ちよ。それに、お見合いする前に母さんちょうどいい人を目星つけているの。その人は――。」
「……はぁ」
母に言われても返す言葉がない。
パッと浮かんだのはアンティークショップのことだ。もとの持ち主を探す。この前は自分の依頼だった。とはいえ、やりがいのある仕事のような気がした。しかし、母に
「ややこしいな」
お茶を飲みたくなって階段を下りると、兄の友達だった、
「こんにちは」
「やあ」
すると母がすかさず
「あら、今夜は祭りがあるから、お墓に行くついでに二人行ってきたら?」
(でたな……。母イチオシの由志郎さん)
「はぁ……い」
母は何を期待しているのだろう、兄を失った悲しみの先に娘がお涙ちょうだいの結婚とか描いているのかな……。だとしたらそれは母の夢であって、わたしの夢じゃない。それなのに、反発するこれといった芯もなければ気力も自信もない。それに、母のよからぬ宗教も気になって仕方がない。
***
夏休みに入り、一樺はバイトしに狭間一丁目まで来ていた。今日もお店のお掃除をしていた。相変わらず客は来なかった。
「ふう……」
元気のない一樺を見て、天井まで積み上げられてごちゃごちゃっとした店内をお掃除中の美少年姿のシャルルが
「今日は浮かない顔ですね」
「シャルル、心配してくれるの? 実はねー。高校卒業したら見合いしろって母が―あははぁ~」
「ええっ。お見合い⁉ 日ノ国の女子は大変だニャー」
「!」
シャルルが驚いたその横ですごい形相の九十九がいた。
「九十九さん、どうしたんですか?」
「……え? ああ。今なんか俺、変だったか?」
「はい、びっくりするくらいこわい顔で……。」
「ああ、すまん。ところで例の海坊主の依頼だけど、大ほら貝が発見された〈南の地〉に
「わかりました」
***
数日後、東の地駅、猫の石像前で前回と同じく待ち合せた。
「また、おそいな。今回はシャルルがマタタビに遭遇しませんように」
しばらくしたら、また美少年姿シャルルを抱きかかえた九十九が到着した。シャルルは目を輝かせ、手には鋭利な黒茶色の物を持っていた。深く帽子を被り疲れ切った九十九は人混みを避けながらいう。
「はぁ、はぁ……。すまん。今度はかつお節が落ちていて」
「ええ―っ。……ここまでくると、シャルルを狙っているとしか思えないわ」
「左様、犯人は半獣か、
「僕は
本枯かつお節をしっかり握りながら、美少年シャルルは頬を膨らます。一樺が汗だくの九十九にタオルを渡しながら言った。
「そういえば、店内のわけあり家具とかって、サラ人形もそうだけど、全部、付喪神つきの家具や雑貨なの?」
「左様、コンコン、タオルありがと。―なぜ聞く?」
汗だくの九十九はタオルで汗を拭った。
「いえ、九十九さんがいわくつき商品を引き取りすぎて家具や雑貨が店内に入りきらなくなっていますよ。これって半獣さんに販売しませんか? 例えばフリーマーケットで半獣さん相手に売れたらいいなと思って……」
「それはいいな。よし考えておこう」
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