第4話 一樺バイト決まる
「まずは採用記念に乾杯だ」
「九十九さん、その、ワイングラスに入っているのは、
「あのねぇ。俺は動物じゃない。狐にも
「よかった。もしも手土産を持参しても食べてもらえなかったらどうしようかと思ってました。ネズミなんて捕まえられないし、ちなみにそれは赤ワインですか?」
「……そのようなものだ」
なぜか顔を曇らせボソッと言った。
「??」
「今日から一樺さんは従業員で俺は雇い主という雇用関係になった。では、約束通り、人形の持ち主の調査をすることにしよう」
グラスをおいて、一樺の方を向いた。
「本当ですか! ありがとうございます。では、よろしくお願いします。わたしに何か手伝うことはありますか?」
九十九は人差し指を口にあて、ふむと考える。
「そうだな、手紙を書いて欲しいな。できれば大陸語で」
「ええっ―。大陸語はにがて……」
「学生だから、がんばれるね? そして、その手紙を
「木霊……?」
「それはあとで説明するとして、実は、異界にも郵便局があって、島国の
「すごい。大陸でも聖獣さまはひっそり生活されているのですか?」
「ああ、そうだ。それと、うまく人形の持ち主がわかるといいな」
***
日曜日、特に予定のなかった一樺は家の庭に水をまいていた。すると、毛並みの良い三毛猫が塀の上から現れた。
「まあ、かわいい猫ちゃん……って、シャルルじゃん」
「ちょっと、今は三毛猫なんだから、お願いだから水嫌いだからかけないでニャー」
「あ、ごめん。でもどうしたの? シャルルは
「狭間に引きこもりは九十九さんだけだよ。それに、僕は化け猫なんでね。
「そっか―。同じような
「そうだった、九十九さんから伝言だ」
「なに?」
「木霊に頼んだ
「ええっ。そうなの? すごい」
***
次の日曜日、一樺は九十九と人形の持ち主の滞在する貸別荘に出向くことにした。
東の地駅前にある、招き猫の石像の下で待ち合わせをした。
「はぁ、待ち合わせ時間が一時間も過ぎているけど、いつになったら九十九さんたち来るのよ。もう帰ろうかな……」
すると、人目を避けるように顔を隠し美少年を抱っこした九十九がやってきた。その少年はうっとりとしたような、酔った顔をしたシャルルだった。
「はあ、ごめん。遅刻した。マタタビが落っこちていて、なかなか動けなかったんだ」
「ええっ⁉ 化け猫でもマタタビ好きなのね。って、マタタビが落ちている状況ってどんな?」
「うるさいニャ―。だから元・猫って言っているだろ」
美少年シャルルは白いブラウスに高そうな短パンを履いて、髪も整えてある。
「まあ、シャルル、育ちが良さそうな男子に見えるわ」
「僕を誰だと思っている? 化け猫をなめてるの」
九十九に目を向けると、今日は今時の二十代らしいラフな若者ファッションだった。そして帽子をかぶり、メガネとマスクをしていた。
「今日の俺は、年の離れたシャルル兄のつもりだよ」
***
電車を乗り継いで、人形の持ち主である、
「初めましてぇ、ジョシュアとイイマス。コニチワァ」
「コニチワァ」
「一樺姉さん、そっちに言い方を寄せなくていいよ」
男の子シャルルが小声で口を挟む。
(やだ。わたしったら、大陸人と話したことないから緊張して変な言葉になっちゃった)
「えーと、えーと……」
「すみません。わたくし通訳をしていて、ジョシュアとは家族ぐるみでお付き合いしている友人の
うしろから声がした。落ち着いた雰囲気の40代くらいの日ノ国の女の人だった。
「あ、はい。じゃあ、手紙のお返事いただき感謝します。それで、えっと、人形のことで来たのです」
一樺は大きな袋からガサゴソとケースに入った人形を見せた。
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