第3話 三毛猫シャルル
―
「ほら、俺は
「狐さまなんだから、女に
「……」
そんなこんなとしゃべっていたら、日も暮れ、来週までに返事をする約束をして帰った。日ノ国ではごくごく普通の二階建て一軒家に住む一樺は、家の玄関を開けた。
「一樺、おかえり」
「ただいまー」
母が台所で夕飯の準備をしている。今晩はすき焼きの匂いがした。
「もう、一樺ったら、高校三年生でその短い髪はなんなのよ。ずっとそのままでいくの? そんなんじゃ嫁の貰い手ないわよ」
「別にいいでしょ、昔ほど絶対結婚しなくちゃいけない、なんてことなくなったんだからさ。それより今日、お兄ちゃんのお水かえた?」
「ああっいけない、お祈りに夢中になってて忘れていた、一樺、お願いね」
遺影の前にお水を置く。兄が亡くなってから、霊感が強くなった一樺。そして母はなにかよからぬ宗教にのめり込んでしまっているが、今は何も言えない。階段を上り、自分の部屋に戻ると、部屋着に着替え、ベッドに腰を下ろした。
「ふう……」
今日は、不思議なことがあった。九尾の狐さまに出会ったことだ。おまけに、アンティークショップのバイトを勧誘された。将来の進路のこともあるが、奇妙なバイトも気になった。
***
ここ、日ノ国では、その昔、
次の週になる。
学校の授業終了のチャイムが鳴る。友だちの
「一樺、このあと遊ぶ?」
「いい、家に帰る」
友だちの誘いを断って、一樺は再び、人間界と異世界(
カランコロン
「こんにちは。ん?」
「こんにちは」
よく見ると、小学生くらいの男の子が店内で
「……えっと、ボクお名前は?」
すると、男の子は笑う。
「いやだな―先週、会ったでしょ?」
「先週?」
「僕はシャルルだよ」
「!」
(驚いた! まさかコタツで丸まった三毛猫シャルルが化け猫だったなんてね)
「化け猫になる位だから百歳は超えているよね。シャルル何歳なのさ?」
「僕は八歳だよ」
「そんなかわゆい顔をして年上なんでしょ?」
「……なんのことか、わからないニャ―」
「シャルル、一樺さんをからかうな」
前回とは打って変わって上品で優しい声音、しゃらりとしたブラウスを着こなしフェミニン九十九が奥から出てきた。
(あれ? いつの間にさんづけになっている、しかも今日は少女漫画に出て来そうな女ウケする服を着ているぞ)
「今日は来てくれてありがとう。うれしいよ」
キラッとした笑顔で一樺の肩をぽんぽんする。
(やたらキラキラしいけど、うーん。急にこの感じ何かあるな……)
「じゃあ座ってて、お茶を入れる」
今日はコタツに湯飲みをおいて、九十九は急須に茶葉を入れ、高い位置から優雅にお湯を注ぐ、お茶を湯飲みにいれた。
(その入れ方は紅茶の美味しいいれかたであって、緑茶にその高さは関係ないと思う)
「どら焼き、どうぞ」
「ありがとうございます」
(あれ? 距離、近くないか)
気がつくと九十九は一樺の横に座り、妖狐の本領発揮とばかりに首を傾げ、じっと見つめていた。狙った獲物、逃さないぞ、みたいな。
「それで、バイトの件だけど、どうかな?」
(うわーやっぱ人を惑わせる一流の妖狐男だな。色気すごい。見つめないでくれっ)
そっと一樺の手を取り、さりげなく顔を近づける。
「もちろん、バイト代も払うし、一樺さんを危険な目にあわせるつもりもない。俺は大妖怪だから強いんだよ。やってくれるよね?」
金髪美青年。キラキラと濡れた瞳で瞬きせず一樺を見つめる。
(うう……。こんなの免疫ないからな―恥ずかしい)
「じゃあ、わかったよ」
「やったー! 一樺さん、僕も歓迎するニャ―」
横に三毛猫、もとい化け猫シャルルが座っていた。
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