第2話 コタツに紅茶に猫
四畳半と狭いのに、部屋のど真ん中に大きなコタツがおいてあり、壁面は天井近くまである本棚に所狭しと本がびっしり収められている。部屋の隅に机と椅子があり、何かの研究をしているのか机の上は資料が乱雑に積み上げられ、埃がかぶっていた。
小さいキッチンでお湯を沸かす。
「ちょっと、狭いがそのコタツに座ってくれ」
「へえ、半獣さん。見かけによらず庶民的ですね。シュールっていうか」
「俺は年上だ、九十九さんと呼べ!」
「あ、すみません。聖獣を勝手にイメージしていました。こんな大陸顔で紳士的な風貌なのにコタツチョイスがちょっとシュールかなぁって」
「……まあよい。俺は半獣と言っても毛色が違うからな」
「そうなんですか?」
「ああ、聖獣はまず、
「いわゆる、
「左様、だが大陸の血も混じっていて、このようななりをしている。それに俺は稲荷の狐を祀った神社を所有していない」
お湯が沸き、コタツのテーブルに予め温めておいたアンティークなカップをおき、茶葉が入ったティーポットに沸騰したお湯を高い位置から空気がはいるように入れ。数分蒸らしてから、ティーカップに紅茶をいれた。
「どうぞ」
一樺は一口飲む。
「美味しい―。こんな美味しい紅茶を飲んだの、初めてかも~」
一樺の素直な反応に、
「ふ……」
九十九が少し微笑む。
(……湯気越しでも、よく見ると、いや、見なくても九十九さんは美青年だな)
「それで、俺は考えた。きみ、ここでバイトする気はないかな?」
「ちょっと、話飛びすぎです。わたしがここに来た理由を知りたくないですか?」
「人間からの相談は受け付けていないが……。チッ……仕方あるまい。聞いてやろう」
「まって、お客に舌打ちって、店員さんの癖に口悪いですよ。その美しいお顔が台無しです」
「何をいう。俺はアンティークショップを経営する二十四歳(設定)、若き社長だぞ。それに昔こそ普通に半獣は
「ええっ。そうなんですか? 常世国って異世界にも国があるんですね。それに婚姻禁止って、どうりで最近、半獣さんを見かけないと思ったら、そんなことになっていたんですね」
「そうだ、人間と関わらないよう最小限にとどめている。聖獣と人間が密に関わるのは、帝・皇族の周辺のみだ。だから今こうしてきみと話をするのは憚れる」
「でも、今バイトに勧誘していましたね?」
「……コンコン。それには事情が」
(コンコンって、やっぱりこの
「!」
スルッと、いつの間にか横に猫が座っていた。愛想のいい猫だったので頭をなで、お腹を触っても嫌がらなかった。
「まあ、かわいい三毛猫。コタツに猫だわ。こたつの上にはみかんもあるし、でもそれならここで緑茶だけど、なぜに紅茶……」
「ええい、うるさい女め。出されたものを大人しく飲んでおけ。ええと……」
「一樺です」
「そう、犬間一樺くん。して依頼とは?」
「この猫の名前なんていうのですか?」
「話が進まん。あー猫はシャルルだ」
「へぇ、シャルル、かわいい名前。オス猫だ! 珍しい~」
「左様」
「あ、それで依頼なのですが」
高校鞄とは別に、大きめの紙袋からガサゴソと取り出した。
ドン
それはケースに入った、ドレスを着たアンティークな
九十九は人差し指を唇にあて「ふむ」といって、おもむろに胸ポケットから取り出しメガネをかけた。
「百年経つと物には
「これは、
「ほう」
「かわいいと思って、こんなに凝っているのに安いので買ったら、真夜中しゃべり出して」
「犬間くんは、霊感強いのか……。俺、その手の話は苦手。なんとしゃべったのかわかるか?」
(狐さまなのにどうやって今まで依頼をこなした?)
喉の奥で引っかかった言葉を出すことはなかった。
「しくしく泣いて、大陸語で『帰りたい……』っていうの」
「……」
「だから、元の持ち主に返したいのです。できますか?」
「かなり年代物だ。持ち主はもう亡くなっている可能性が高いが?」
「それなら、親族に、お返ししたい。それが無理ならあきらめて持ち帰ります」
「ならば……取引だ」
「え?」
「その依頼を引き受けたら、ここでバイトする気はないか?」
営業スマイルで九十九は微笑んだ。
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