ヘルプ・ミー!

霜月かつろう

第1話

「あー。猫の手も借りたいー」


 人がそれなりにいるオフィスでその声はよく通った。数名がこちらをちらっと気にしてはいるもののすぐに興味を失ったのか自分の仕事に戻っていく。


「気持ちはわかりますけど。どこも人手は足りてないので無理ですよ。頑張ってください」


 唯一相手をしてくれるのは隣の席のツリ目の山田やまだくんだ。だいたいこうやって一人で騒いでる時にとなりで面白そうにしてくれているのは彼だけだ。


「頑張ろうにもアイデアが降ってこなくては頑張りようがないじゃない」

「ありますよ。アイデアを降らせるために頑張ること」


 新商品開発の企画書提出は明日までだ。それなのに、ページはまっさらなまま。誰でもいいから助けてほしいと願っていたが、まさか隣の山田くんが助けてくれるとは。


「アイデアを練るには現状を知ること。特にニーズの調査から競合の調査は必須です。そこから、隙間を縫うように消費者が求めているものを引き出せばいいだけです!」


 元気いっぱいに説明をしてくれたのはわかる。でも、明日締切の相手に言うことではない。とっくにそんなことはやっているし、それでも出てこないからうんうんと唸っているのを察してほしい。


 頭を抱えていることに不思議がって覗き込んでくるそのつり上がった目が心配そうにしているのを見てため息が思わず漏れる。


 そのツリ目から猫だと揶揄されて、どこかでは猫田ねこだくんと呼ばれている可愛げのある彼は今日も愛嬌を振りまいてくれる。


 実際、何人かがパソコンのモニタの向こうでニヤニヤしている気配が伝わってくる。


 猫の手を借りたいと言ったけれど、こんな結果は求めてなんていなかった。ん?


 猫の手を借りたい人が信頼して頼めるサービス?……商品?どちらにせよ面白そうな着眼点な気がしてくる。


「なんだか行けそうな気がするよ。ありがとう猫田くん!」


 キョトンとする山田くんをよそに周りの何人かが吹き出した。

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