第16話 (最終話)ヴァンとコーラルのこれから。
3時間後、城の一室で目覚めたコーラルは声にならない悲鳴を上げていた。
全身があり得ないほどに痛い。
また新たな病気を疑いながら広域化させた伝心術で助けを呼ぼうと思った所にオルドスとヴァンが入ってくる。ゴルディナは不在だった。
「おじ様…身体が痛いの…」
そう悲痛な声を小さくあげるコーラルにオルドスは笑いかけて「全身筋肉痛だよね。それは痛いよね」と言った。
耳を疑う言葉に「は?」とコーラルが聞き返すとオルドスは「筋肉痛だよ」と再度言った。
「アクィさんが見せた動きを真似して身体を振り回しただけでも辛いのにスカロ君の訓練まで受けたんだよね?もう身体バッキバキでしょ?」
「ぇぇ…そんな…」
嬉しそうに笑うオルドスは少し意地悪い顔で「だからアクィさんはヴァン君にマッサージを頼んだんだよ」と言う。先ほど眠る前にアクィが言った「起きたら辛いからその共に旅をした彼氏に頼むのね」という言葉を思い出して「ええぇぇぇ…恥ずかしい…」と言って「ゴルディナ…お姉様…」と言って金色を探すが、意地悪い顔のままのオルドスは「久しぶりだからヒュドラ君達とお茶会。中座させる気はないよ」とバッサリと切り捨てた。
「そ…そんな…」
「まあ詳しい今後とかは追々ね。今はヴァン君のマッサージを受けながら話そうよ」
この言葉でヴァンは前に出ると「ほら…痛いんだろコーラル」と言って手を出す。
「ひゃっ…だめ…触らない…でぇ……」と言って痛がるコーラルを無理やりうつ伏せにすると足の裏からゴリゴリとマッサージを始めるヴァン。
声にならない声と苦悶の表情、力加減に合わせて苦しむコーラルのリアクションにヴァンがゾワゾワとした背徳感に襲われるとオルドスが「ヴァン君、ミチト君みたいな顔になっているよ?」と言って笑う。
「顔ですか?」
「うん。ミチト君もオオキーニを吹き飛ばすくらいアクィさんが好きで、よくアクィさんを困らせて喜んでたよ」
オルドスは今はいない友を懐かしむように説明するとヴァンは「まあこのコーラルは可愛いですよね」と言って今度はふくらはぎを揉みしだくとコーラルが「やぁ!やめ!だめ!痛い!」と言ってベッドの上で身悶える。
見かねたオルドスに「話があるから少しだけ優しくしてあげてね」と言われたヴァンは大人しくなるとコーラルは目に見えて落ち着いたリアクションをする。
それを見たオルドスは「さて、コーラル・スティエット」と話しかけた。
「君は成長限界に達するか子を授かって隠居するようになったらスティエットの一人として大地の根に根付いてもらうからね」
「はい。それで良いのですか?」
「今はまだ完全な術人間のイブさんくらいの能力だからね。正直ヘマタイト君も成長限界前だから止めたんだけど言う事をきかなくてね。今日の彼が弱かったのはそれも原因の一つだよ」
「そうだったんですね」
そう思うとフェアな戦いではなかったことに気付くコーラル。
だがヘマタイトは正々堂々と勝負を受けた。だから良かったのだと自分に言い聞かせる。
「この先のことだけど、コーラルが暴れている間にヴァン君と話したからね」
「はい?ヴァンとですか?」
意外そうなコーラルの言い方が気に入らないヴァンは「え?何その言い方」と言いながら手に力を込める。
今は太ももに手が伸びていてこれでもかと揉みしだくと「痛い!いたたたたたた!!」と言ってコーラルが暴れる。
「ヴァン君はこの時代の君の友達として君の補助をする仕事に就いてもらう事にしたからね。ドウコのご両親もヴァン君の給金の一部がご両親に回るならと言って大いに喜んでくれて大歓迎と言ってくれたよ」
オルドスの説明に照れたような呆れたようなヴァンが「まあさ、そんな訳でコーラルがサルバンに行くなら俺も行くし、諸國漫遊をするなら俺もついて行く」と言って笑う。
どう考えても戦力的に役に立たないヴァンをジト目で見るコーラルはオルドスに「おじ様?私に護衛は必要ありませんよ?」と言ってしまう。
「ふーん…コーラルはそう言うこと言うんだ」
今度は腰に伸びていた手がゴリゴリと揉みしだくと「痛っ!いたたたたたたたた!やめてよ!」と叫ぶコーラルにヴァンは「万一敵と戦って無理して筋肉痛になったら俺居ないと大変だよ?」と言って再び笑うとオルドスが「それに世間知らずで温泉に釣られても困るしさ」と言った。
諦めた表情で「そんなぁ…」と漏らすコーラルにオルドスが「え?コーラルはやりたい事とかあったの?」と聞く。
コーラルは「ありませんけど決まってしまうと…」と言ってこれからが決まっていたことに不満を漏らす。
「まあさ、とりあえずこの世界の友達一号は大事にしてくれよなコーラル」
「…わかったわよ」
ようやく諦めたコーラルをマッサージするヴァン。
背中も終わり右手に入ったところで「あ、そうだ。コーラルが寝てる間にヘマタイトと話したんだけどさ、アイツそんなに悪い奴じゃないのな」と言う。
「とりあえず、する事ないなら暇つぶしでコーラルに黒のトゥーザーでも追ってみればって言ってたよ」
「なにそれ?」
聞きなれない言葉にオルドスが「あはは、メロさんの直系子孫の子達がスティエットでもサルバンでもなくトゥーザーを名乗っていてね」と説明を始める。
「…え?」
「義賊なんだよね。今回ヴァン君のお父さん達に石棺の保護を頼んだのも黒のトゥーザーのメンバーだよ」
義賊と言う不穏な単語に「ええぇぇぇ…、なんですそれ?」と聞くとオルドスが答える前にヴァンが「なあコーラル、オルドス様は教えてくれなかったんだけどさ、伝説のミチトの子供ってメロ・スティエットを入れて10人だろ?その子供達が子供を産んだら何人いるんだ?それに皆いい奴なら良いけど悪人だったら?」と聞いてくる。
80年前でも相当数の親戚が居るだろうと言われていたし、皆スティエットを捨てていたので後追いは難しかった。
そして当事のコーラルはその全員が貴い者として不義を正していると思いこんでいた。
嫌な予感に襲われながらコーラルはオルドスに「…おじ様?」と聞く。
オルドスなら全てを見て把握しているだろうと思っていたし、オルドスに「問題ないよ」と言ってもらいたかった。だがオルドスは「まあ、悪人はいないけどオッハーに移住したロスさんとか居るよね」と言って笑った。
「それを陛下には?」
「言わないよ。トラブルの種だもん」
スティエットが身分を隠して他国に移住をしたなんて知れたらとんでもない騒ぎになる。
言って連れ戻そうにも、説得で戻ってくればまだいいが、スティエットと戦えるのは同じスティエットかオルドスくらいしか居ない。更に他国の人間が闘神の子孫を手放したい訳はない。連れ戻せば戦争にもなるし、万一戦争になると国や友を守るために剣を手に取るかもしれない。
色々と起きうる面倒ごとを想像して黙ってしまうコーラルの顔をヴァンが覗き込んで「コーラル?」と呼びかける。
コーラルは「戦争になったらスティエットがマ・イードに攻め込んでくるかも…」と言い、オルドスが「まあそれはないと思いたいよね」と言って笑う。
「…どうしよう…」
「んー…?とりあえず問題が起きたらなんとかすれば?とりあえず旅に出るならナー・マステ行こうぜ、コーラルに珊瑚見せたいし魚美味しいらしいよ」
確かに未然に防ぎようがない以上、対処療法に頼らざるを得ない。
コーラルも気を取り直して「…じゃあ海底都市によりましょう」と言う。
「おう、よろしくなコーラル」
そう言いながら2周目のマッサージを始めるヴァンに「…とりあえずマッサージ覚えて」とコーラルが言う。
「了解、んでもこれ父さんには評判だったんだけどな?」
「バカ!ヴァンのお父さんは棍棒みたいな身体でしょ?私には痛いのよ!」
ヴァンは確かにと思って手を止めて「成る程、そっか」と言ったとは母にするような穏やかなマッサージでコーラルの疲れを癒していた。
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