第15話 アクィ・スティエット。
コーラルは愛の証に向かって読心術を使う。
するとすぐに「まったく、やっと気付いたわね?」と聞こえてきた。
驚いて「え?」と返すコーラルに「ふふ。はじめまして。私の名は…名乗りは必要かしら?アクィ・スティエットよ」と剣は名乗る。
「アクィお婆さま?」
「まあお婆さまだけど今の見た目は究極の無限術人間になった時のものになるようにしたつもりだけど…どうかしら?」
確かにコーラルに見えているアクィは若々しい女性のもので真っ赤な髪、戦いやすそうな無駄のない身体、それと見ていて恥ずかしくなる薄着だった。
「若いです」
「ふふ。ならアクィさんで呼んで。まったく読心術を使うって教えなければダメなのかしら?」
呆れるアクィに「すみません」と謝るコーラル。
「いいわ、病気で80年も眠っていたのね。大変だったわね。それでもその力強いサルバンの目とミチトを彷彿させる気迫は見事よ。力を貸すから共にこの状況を乗り越えるわよ。後で見せてあげる。あなたの妹なのね。グラス・スティエットも私を手に取って貴い行いをしたわ」
グラスの名がアクィから聞けたことでテンションの上がるコーラルは「ありがとうございます!」と礼を言う。
「まだ殴り飛ばされてる最中よ。風の術で姿勢制御。着地と同時に滑走術を使いなさい?やれるわね?」
「はい!風の術!水魔術・滑走術!」
コーラルは風の力でふわりと着地をすると一気に滑り出す。
滑る速度も申し分なくアクィは満足そうに「動きは補助するわ!収納術は?」と聞く。
コーラルは作った日の事を思い出しながら「あります!」と返す。
「あなたのレイピアは?」
「入ってます!」
「なら一瞬出してまたしまいなさい!イメージ!私の動きをなぞりなさい!」
アクィは右手に愛の証を持つと左手は収納術から出したレイピアを持って「二刀剣術…八連斬!」と言って動いて見せるコーラルはアクィの動きをすると「収納術…二刀剣術…八連斬!!」と言い放ち、眼前にいた人喰い鬼の群れを斬り刻んだ。
「やるわね、左手のレイピアはしまいなさい!次よ、あの蜥蜴人間の群れに氷結結界!」
「できません!」
「やるの!真式なら私の動きを見れば身体が術を覚えるでしょう!ポイントは発生点の意識!あなたの術で何処まで一気に冷やせるかと一度にどれだけの氷が生み出せるかよ!見なさい!これが究極の無限術人間の氷結結界よ!氷結結界!」
イメージの中でアクィの放った氷結結界が見えた。それはあの群れを一撃で凍らせるものだった。
「氷結結界!!」
「出して止まらない!アイスバイト!やれるわね?」
「はい!アイスバイト!」
氷づけた蜥蜴人間はゴリゴリと言う咀嚼音と共に砕かれていく。
「次!サンダーデストラクション!生み出す雲にまで力を込める!行くわよ!サンダーデストラクション!!」
アクィの真似をすると遜色ないサンダーデストラクションで目の前にいたゴブリンから人喰い鬼まで尽く黒焦げになっていく。
「よし、あの飛んでる人喰い鳥は超重術で落としてアースランスよ!」
アクィの一挙手一投足が見えるコーラルは「はい!超重術!アースランス!」と動き、指示通り人喰い鳥を倒す。
「あ、魔物の素材はきちんと持ち帰って売るのよ。ミチトなら倒しながら拾うから意識しなさい」
「え?この間に収納するんですか?」
コーラルは今の動きでもギリギリなのに更に死骸を集めているというミチトの行動に目を丸くした。
「勿論よ!私のミチトは照れて「器用貧乏だからね」なんて言うけど誰よりも貴いからやれるのよ!」
「…本当に貴い方なのですね」
「ほら!魔物の発生ポイント発見!一時の方角!発生ポイントに魔物が尽きるまでインフェルノフレイムよ!」
「はい!インフェルノフレイム!」
天高く放たれた火炎柱は魔物の流出を認めない。
発生するたびに焼き尽くされていく。
後はこのまま尽きるのを待つ、アクィが「お疲れ様…後は出なくなるまで維持しなさい」と指示を出すとコーラルは「はい。ありがとうございました」と言った。
「いいわよ。ねえ。少し聞いていいかしら?」
「はい。なんですか?」
「私がこの剣に憑依術を使ったのは肉体の衰えを感じた50手前の時なのよ」
「憑依術?」
「ラミィに頼んで作ってもらったのよ。剣に意識を複製してとり憑かせたの。目覚めるのは50年後くらいを意識したから死ぬ時の事を知らないのよ。私達の最後を知ってるかしら?」
「初めがリナお婆さまで76歳、夜お風呂で亡くなりました。次がアクィお婆さまで68歳で風邪だと聞きました。次がミチトお爺様で74歳、後年のミチトお爺さまは若い時の無理がたたって剣は振れなくて術や御父様のナイフを使っていたそうです」
コーラルの説明にアクィは嬉しそうな顔をすると「ふふふ。ミチトはちゃんと約束を守ったのね」と言う。
「約束?」
「私より先に死ぬのは許さなかったのよ。私は見送られたかったの」
この言葉の通りならば、ミチトはアクィへの愛を証明したのかも知れない。
そして自身はまだ14だがアクィは16でミチトと出会っている。
後2年、自分にはそういう相手ができるのだろうか?とコーラルは考えてしまう。
「イブとライブは?」
「イブお婆さまは71歳。シューザさんと万命共有をしたせいではないかと、ライブお婆さまは80歳でした」
「ありがとう。あら、魔物の放出が終わったわね。子孫と話さなきゃね」
「はい」
コーラルは術を止めてヘマタイトの元に行くと「勝負アリね?」と聞く。
答えられないヘマタイトの代わりにゾルア・カラーガが「コーラル・スティエット様の勝ちです」と言う。
ゾルアに頷いたコーラルが「ヘマタイト、貴い者として、勝者として言うわ。過度のお願いや貴い行いからかけ離れた行為はやめなさい」と言うと一瞬の間の後でヘマタイトは「…わかりました」と言った。
コーラルはヘマタイトを称えるように右手を前に出して握手を求めながら「でも力強さは本物ね。ダンジョン管理なんかは向いているのかも。とりあえずお城に行きましょう。転移術は任せるわ」と言う。ヘマタイトは握手を返して「わかりました」と言って謁見の間に戻る。
謁見の間には出て行った時のままの面子が残っていた。
コーラルが勝ったこと、ヘマタイトのお願いに関しては不義を感じた時は断るように全員に申し伝えた。
そこにやってきたのはオルドスとゴルディナとヴァンだった。
「おじ様!」
「やあ、見事だったよコーラル。でもそろそろいいかな?アクィさん?」
オルドスが「愛の証」に手を当てると「ご無沙汰してます」とアクィが言う。
「コーラルの補助をありがとう」
「ええ、じゃあ後はよろしくお願いします。コーラル、3時間寝て限界値の更新をなさい。後は起きたら辛いからその共に旅をした彼氏に頼むのね」
この言葉の意味がわからずに「アクィ様?」とコーラルが呼びかけるが返事はなくアクィの気配が消えると途端にコーラルは崩れ落ちる。
身体の力が抜けて「え?」と崩れるコーラルを受け止めたのはヴァンだった。
「コーラル?大丈夫?」
「ヴァン?身体…力入らない…眠いの」
オルドスが「まあ蘇っていきなりオーバーフローを制圧してくればそうもなるよ。今まで君は術無しでギリギリだったんだよ?それを急にはいくら真式でも無理だよ。アクィさんが剣についてる魔水晶で補助をしてくれたから普通にできていたんだ」と横に立って説明をすると確かに思い当たる節はある。無茶をしすぎていた。
「え?じゃあ…」
「うん。無理しすぎ、今は眠ってね。起きたら地獄だろうけど頑張ろうね」
地獄と聞いてギョッとしたコーラルは「え?…おじ様?」と聞き返したがそのまま眠りについた。眠りにつきながらそう言えばグラスの活躍を見せてもらっていなかった事も思い出してしまったと思っていた。
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