第13話 ヘマタイト・スティエット。

コーラルは1人で王都のメインストリートに着いた。

見渡す景色は80年前とそうかわらない。

多少古く感じる場所もあれば新しさを感じる場所もある。


コーラルは「ここに…もう一人のスティエットが居る」と呟く。

そんなコーラルの先ほどの宣言を聞いていた王都の民は転移術で王都に現れたコーラルを見てスティエットの再来を喜ぶ。


だが喜んだのは平民のみで貴族達は青くなっていた。

ヘマタイト・サルバン…スティエットを名乗っていたヘマタイト・スティエットの行為はかつての盟約を知るものからすれば間違っていることは百も承知だった。

だがオルドスが用意をした大地の根に無限術人間真式が己を張って溢れる力を注ぐ事で得られる恩恵は果てしない。

オルドスが張った力はダンジョンに眠る魔水晶や鉱石が何度掘っても蘇る。

かつてミチト・スティエットが張った力は渇いたオオキーニの土地やダンジョンに注がれたがミチトが死んだ今それは無くなっていた。


徐々に痩せ細り元の姿に戻っていくオオキーニの大地。

ミチトの恩恵にあやかって増えた人口ではあっという間に食糧難になり、そう遠くない将来戦争になりかねない。


城での議題はオオキーニの食糧難の事になりつつあった。

そこに現れたヘマタイトはスティエットを名乗りオオキーニに力を注いだ。

ミチトには到底追いつかない為、ダンジョンに力を注ぐことは出来なかったがオオキーニの土地を緩やかに潤わせる事は出来た。

それだけでも異常で貴重な事だった。



無限術人間真式。

その存在にしかできない事。

無限術人間真式の生み出し方だけはミチト達は頑として秘匿にした。

だからこそ突発的に現れる無限術人間真式にどうしても頼らざるを得ない。


それで得られたオオキーニの潤いという恩恵の代わりにヘマタイトの「お願い」を聞くこととなった貴族達。

そんな貴族達はスティエットを名乗る者が現れた事に恐々としていた。



「さて、何処に行けば会えるかしら?別荘かしら?」

そう言ってコーラルはミチト・スティエットがシック・リミールから貰った別荘に向けて歩くとすぐに騎士団が近づいて来た。

騎士団員は先日のような風貌ではなく、キチンと訓練を積んでいることがわかる風貌で清潔感もある。


「コーラル・スティエット様ですか?」

「ええ、あなたは?第一騎士団?」


「いえ、第二騎士団です。お探しの方は王城謁見の間にて待つとの事です」


この答えにコーラルは「じゃあエスコートしてくださる?」と言うと騎士達は「かしこまりました」と恭しくお辞儀をした。



王城に向かう間、コーラルはエスコートの騎士達に簡単に説明を求める。


「ヘマタイトってどんな子?」

「…ヘマタイト様は今年28歳になる方で沈着冷静な方です」


「結婚は?」

「お話は殺到していますがご本人はどれもお断りをされています」


「まったく…お爺さまが嫌がる話だわ、タイミングは重要で後悔をしないように考える教えなのに何をやってるのかしら…」

呆れるコーラルはそのまま「個人的には?好き?嫌い?」と横を歩く騎士に聞くと、騎士は慌てた様子で「え…それは私達には言えません」とだけ言った。


「そう。それでもいいわ。ありがとう。今のこの国は暮らしやすい?」

「術人間が乱造されていた時よりはマシです」


「いい、ではなくマシ…ね。わかったわ。今のオオキーニはどんな感じ?」

「この13年はヘマタイト様のお力で何とかなっております」


「成る程、それでお願いしちゃえる立場なのね」

話している間に王城に着いたコーラルは騎士達に礼を言うと姿勢を正して謁見の間に入る。

謁見の間にはアクィを彷彿させる赤毛の青年と数人の貴族、そしてスーゴイが居た。

コーラルはコーラル・スティエットとして挨拶を交わす。


「そのお顔立ち、私の時代…トートイ様を彷彿させますね」

「そうか?それは嬉しいな。スティエットを名乗ってくれるそうだなコーラル」

スーゴイは王としての姿勢を崩さず、そしてコーラルを敵視する訳でもなく普通に接する。


「はい。貴い者の一人として、スティエットとして不義を見逃せません。目覚めた私、ラージポットを目指す私は第一騎士団や何者かの模式に襲われました。これは何故でしょう?」

答えられないスーゴイの代わりに口を開いたのはヘマタイトだった。


「大叔母様、それは誤解です」

「あなたがヘマタイトね。何が誤解なの?」


「書物ではコーラル・サルバンは清廉潔白、実直を絵に描いた貴い者とありましたが、長期間にわたる転生術と断時間術の帰還者は大叔母様が初めて、性格が変わっていて暴れたらと思い模式達に保護を命じました」

「へえ、私をドウコに移す任務を請け負った者達は家を焼かれたわ」

鋭く睨むコーラルと飄々と返すヘマタイト。

周りの貴族達は戦々恐々とこのやり取りを見ている。


「それは受け渡しを拒否したからでしょう」

「ではラージポットを目指す馬車が次々と山賊達に襲われたのは?」


「それは知らぬところ、治安維持のための派兵を頼みましょう」

「では私の乗った馬車を襲った第一騎士団員は何の力も持たない老婆に剣を突き立てたわ」


コーラルが広域化した伝心術で見せた騎士団員が老婆を恫喝して最後には剣を突き立てて高笑いした姿に貴族達からは落胆の声が聞こえてくる。


だがこれでもヘマタイトは涼しい顔で「ではその者が暴走をしたのでしょう。生還した者を処罰いたします」と言う。この状況はコーラルには望ましくない。眉間にしわを寄せて「ラチが開かないわ」と言った。


「ではどうします?」

「サルバン流よ」


コーラルがサルバン流と言った瞬間、コーラルは圧を放ち、飄々としていたヘマタイトもコーラルを見て圧を放った。


「おや、僕は強いですよ?それに大叔母様は目覚めたばかり、まだ本調子ではないのでは?」

「言ってなさい!我が名はコーラル・スティエット!貴い者の一人としてヘマタイト・スティエットに決闘を申し込みます!」


「ふふ…。その目その圧、アクィ様を彷彿させますね」

ここでスーゴイが「…ヘマタイトよ。見届け人を連れて行け」と指示を出す。

スーゴイはスティエット同士の戦闘を不問にするという立場を取った。


「陛下、わかりました。誰を連れて行きますか?」

「ゾルア・カラーガ、スティエットへの恩義をまた一つ果たせ」

貴族達の中から出てきた高身長で几帳面そうな男は「はい。お任せください」と言って一礼をした。


「カラーガ?」

「はい。私はゾルア・カラーガです。潰えそうなカラーガを救ってくださり、ナイライ・カラーガの葬儀では剣に眠る言葉を皆に知らせてくれたミチト・スティエット様への恩義は計り知れません。巻き添えなど気にせずに力の限り振るいください」


「ありがとうございます。ヘマタイト、いつでも良いわよ」

「じゃあリブートストーリーに行きましょう」


「ダンジョンね」

「ええ、あそこなら暴れても被害は出ません。正々堂々、持てる力で戦いましょう」


「いいわ。私が勝てたら大地の根は変わらず、貴い者としての不義だけはやめさせる」

「では僕が勝ったら大叔母様も僕の願いを聞いてくれる人になってください」


「構わないわ」


「では」とヘマタイトが言うと目の前はホワイトアウトをした。

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