第12話 愛の証。

アクィの部屋はこれでもかとレイピアが置かれていて、ドレスや指輪は少しだけだった。

「戦勝パレードで着た温感の鎧なんかはサルバンに置かれてるの。ここに置くならレイピアよねとラミィお婆さま達が決めてここにレイピアを置いたのよ。毒素は消えたけどかつての毒魔剣から隕鉄レイピア、アクィお婆さまは何かというとミチトお爺さまにレイピアをねだったの」


コーラルは一振りのレイピアの前に立つと涙ぐみながら「お婆さま、貴い者としてまだお婆さまの足元にも及びませんがお借りします」と言って豪華なレイピアに手を伸ばす。

コーラルはヴァンが質問をする前に説明をする。


「これはね、ミチトお爺さまが皆に頑張って装飾のある指輪を作った時に、アクィお婆さまだけは結婚指輪ではなくレイピアを頼んだの。

究極の無限術人間になっていたアクィお婆さまが本気で振るえるように作られたレイピア。軽神鉄と隕鉄をアクィお婆さまの身体に合わせて絶妙なバランスになるように混ぜて魔水晶を完璧に色が変わるまで術を込めて作って装飾にしたレイピア。アクィお婆さまが「愛の証」と呼んだ剣。

棺に入れたかったのに最後の言葉は「愛の証は志しのある貴い者が使いなさい。困った時、私が力を貸すわ」だったのよ」


「愛の証」を腰にさしたコーラルはオルドスを見て「おじ様、ありがとうございます」とお辞儀をする。オルドスは「いや、コーラルこそこの話を聞いてからアクィさんの身体に合わせた剣を使いこなすと言って自分の身体を無理矢理レイピアに合わせたじゃないか」と謙遜をする。


「オルドス様は何をしてたの?」

「おじ様が大鍋亭に断時間術をかけてくれているからレイピアもそのままなのよ。ミチトお爺さまのお手紙だって風化しないのはそれが理由なのよ」

この説明にヴァンが「あ、そうか…100年以上前の手紙だもんね」と納得をする。



「愛の証をお借りした。あとはこの剣で正義を証明するわ」

外に出るとトウテの住人達がコーラルを待っていた。

ハラキータが前に出て「コーラル様?」と聞くとコーラルは「愛の証」を見せる。


直後。


「うぉぉぉぉぉっ!!コーラル様がスティエットを名乗られるぞ!野郎ども!声出して行けぇぇぇっ!」


ハラキータが叫んだ。


手を合わせていた信徒達も目の色を変えて「うぉぉぉぉぉっ!!」と叫び出す。


「コーラル様!名乗りあげをよろしくお願いします!」

「ええ!行くわ!」


コーラルは力強く声を張ると前に一歩出る。

ヴァンはハラキータ達の豹変ぶりに言葉を失ってしまっている。


「広域伝心術!聞きなさい!マ・イードの民達よ!我が名はコーラル・サルバン!欠術病により80年の時を経て蘇りし者。貴い者の一人として、高祖父ミチト・スティエット、高祖母アクィ・スティエットとイブ・スティエットの玄孫としてコーラル・スティエットを名乗る!」


目の前で話したコーラルの声が何故かヴァンの頭の中にも響く。

広域伝心術と言っていた事に気付き、術で国中に名乗り上げた事に気付いた時、ハラキータが「うおっしゃぁぁぁぁあぁぁっ!コーラル様が名乗りあげられたぞぉぉぉっ!野郎ども!」と言った。


信徒達は腹に力を込めて「コーラル様万歳!殺せ!殺せ!ころせぇぇぇっ!!」「コーラル様ぁぁぁっ!」「万ざぁぁい!!」「殺せ!殺せ!殺せ!」と口々に叫ぶ。

数分前の敬虔な信徒の顔は何処かに消えていて目の前には野獣のような眼光で興奮状態になっている。


ドン引きのヴァンが「…なんですかコレ?」と横でニコニコとしているオルドスに声をかけるとオルドスより先にハラキータが近づいてきて「ヴァン様も声をお出しください!」と言う。


ヴァンが今も「殺せ!殺せ!殺せ!」と叫んでいる信徒達を指さして「え!?俺も?」と言うとオルドスが「これ、トウテの伝統殺せ祭りね。皆に好評でさ、コーラルの為に声を張ってコーラルに自分の魂も預けるんだよ」と説明をする。


高揚していくコーラルがヴァンを見て「さあ!ヴァン!頂戴!!」と言う。

ヴァンは引くに引けずに「…殺せ!」と言うとハラキータは「いよぉぉっし!ヴァン様も声を出されたぞ!野郎ども!」と信徒達に声をかける。


信徒達が「殺せ!」と言うとヴァンの肌はビリビリと震える。

その度にコーラルの目は力を増し、紅潮した頬で「ヴァン!もっと!もっと頂戴!」と言う。


ヴァンが先程以上の声量で「殺せ!」と言うとコーラルが身体を震わせて「もっと!」と言う。

ヴァンも熱がこもり「コーラルの敵を殺せ!」と言うとハラキータも「そうだ!コーラル様の敵を殺せ!」と言う。


コーラルはテンションが最高潮になると目を瞑って深呼吸をするとゆっくり深く息を吐いて「皆!ありがとう!行くわ!転移術!!」と言うと転移術で消えて行った。


目の前からコーラルが消えてしまいヴァンが「コーラル?」と言うと横でオルドスが「あらら…行っちゃった」と言い、ゴルディナが「あの浅慮、あの勢い、まさに模真式」と言って頷く。


ゴルディナは少し困った表情で「ですがオルドス様、コーラルはまだ基礎しか学んでいないはず」と言うとオルドスは「あー…しまったなぁ」と言って掌で目元を覆う。


「オルドス様?」

「コーラルはミチト君の氷結結界とか教わる前に病気になったんだよねぇ」


この言葉の意味はヴァンにもわかる。

伝説のミチトが使った術を使えずにアクィの遺した「愛の証」を持って王都に殴り込みに行ってしまい、別のスティエットと戦う事になった。


「え!?じゃあコーラルって…」

「まあ殺傷力の高い戦闘…殺し合いにはならないと思うけどね」


そうは言われても真剣を持って殴り込みに来た相手と穏便に済むわけはない。

そしてヴァンはイブだった時のコーラルの戦闘力を見ている。

殺し合いじゃないのか?と不安な気持ちになりながらどうする事も出来ずに居た。

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