第8話 コーラル・サルバン。

イブの意志は固い。

そう思ったオルドスは「ふぅ…では先に治そう。これを飲んで」と言うとまた手がどこかに消えて小瓶が出てくる。

小瓶を受け取ったイブはマジマジと中の液体を見ながら「これが…治療法ですか?」と聞く。


「そうだよ。これもミチト君が何かの為にと考えていた術からヒントを得て私が作った」

「術の名は?」


「融解術。魔水晶を溶かして、ミチト君お手製のヒールを付与した針を入れた水から作ったポーションと混ぜる事で君の病は完治する特効薬になる」


この会話を聞いていてチンプンカンプンのヴァンだったが瓶と中身には見覚えがあった。

思わず「あれ?その瓶って欠術病の薬?イブってそれを探してたの?言ってくれればオウフでも買えたのに」と言ってしまうと部屋の空気が固まった気がしてしまう。


数秒の間の後でイブは物凄い表情でヴァンを見て「え?…そんなポピュラーな病気なの?」と聞く。ヴァンは「魔術師の人達がなる病気だよね?術が撃てなくなるって奴」と簡単に説明をしてしまう。


愕然とした表情のイブは「…そ…そんな…」と言って立ち尽くす。

きっとイブの中ではさっさと飲んでしまってラージポットを目指していたらどれだけ旅が楽だった事だろうと言う事だろう。


オルドスが少し困った表情で「まあ治療法ができて60年の病だからね」と場をとりなすと、イブに「さあ、話は後だ、薬を飲んで元の姿に戻りなさい。ネックレスを外して」と言う。

イブが「はい」と言って薬を飲んでからピンク色のネックレスを外すとオルドスが手をイブに向けて「奪術術」と言うとイブの身体は光を放つ。


光が晴れるとそこにはイブと背格好は大して変わらないが腰まで伸びていたピンク色の髪の毛は肩くらいの少しオレンジがかったピンクの髪の少女になる。

目はイブよりも大きく眼力が強い。


少女は変わった手足を見て「ふぅ…。久しぶりの姿です。おじ様、変なところはありませんよね?」と聞くとオルドスは「うん。お帰りコーラル」と言った。

コーラルと呼ばれたイブだった少女を見てヴァンが「コーラル?」と聞くとコーラルは「ええ、今までありがとうヴァン」と言って姿勢を正す。


「私の名前はコーラル・スティエット。父方のひいひいお婆さまの名はアクィ・スティエット…旧姓はアクィ・サルバン。母方のひいひいお婆さまはイブ・スティエット。ひいひいお爺さまの名はミチト・スティエット。私はミチト・スティエットの玄孫、コーラル・スティエットです」


確かに本に書かれているイメージのイブよりはコーラルと言われた方がなんとなくだがすんなりと受け入れられる。

そしてコーラルの出自を聞いてヴァンは驚きながら「コーラル・スティエット…」と言っていた。


「ええ、私は14歳、今から約80年前にこの病気になったの。…そうね。もっと最初から話すと、私のひいひいお婆さまのイブ・スティエットもアクィ・スティエットもひいひいお爺さまのミチト・スティエットの手で無限術人間になったわ。それはいいかしら?」

「うん。本にも書いてあるよ」


「そしてミチトは自然発生した無限術人間。ミチトとアクィの娘のラミィ・スティエットも生まれながらの無限術人間。他の子達も何人かは生まれながらの無限術人間だったの。私は親戚同士で恋に落ちたイブの血縁とアクィの血縁から生まれた。私も生まれた時から無限術人間だった」

「無限術人間…コーラルは無限術人間」


「そしてヴァンの言う欠術病になった。そうね…この病気は体内の術が勝手に漏れていくの。そして術人間は術が無くなると身体は術を作ろうとして生命活動の全てを術に回す。だから起きられなくなり、次第に食事なんかもできなくなって死ぬ」

「うん。有名な病気だから知ってる」


「当時、死ぬしかなかった私に父母はオルドス様…おじ様に相談をしてくれたの」

コーラルの言葉にオルドスが「そして私はミチト君が8割方作り終えていた術を完成させてコーラルに使った」と言う。


「術?」

「ああ、コーラル・スティエットとして石棺に入れても後年棺を開けられても助かる見込みは少ないし、そもそも術切れのイブとして石棺を開けた人間をマスターと認識するようにして私の元を目指せば良いからね」


「その術でコーラルはサンゴになってイブになったの?」

「ええ、だから連れてきてくれてありがとうヴァン」


何となく石棺にイブが居た理由はわかった。

無名のコーラルよりも有名なイブの方が馬車の老婆達や自身の両親たちのように手を差し伸べる気がする。

だが別の疑問も生まれる。イブになるとはどういう事だろう。


「でも人がイブになるってどうやったの?」

「転生術。ミチト君が編み出した術でね、転生させたい者に使うんだ。私は発症したコーラルに歳格好が同じイブかライブを勧めたんだよ」


少し困り顔のコーラルは「本当はアクィひいひいお婆さまが良かったけど…」と漏らすとオルドスが「確かにコーラルはアクィさんとは話し振りが似てるけど15歳ごろのアクィさんは術が使えないから緊急時には術を使えなくて困るからだったらひいひいお婆ちゃんのイブさんをお勧めしたんだよ」と言う。きっとこの説明は前にもしたのだろう。オルドスがヤレヤレという顔をしている。

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