第7話 ラージポットのイブ・スティエット。
ラージポットはかつては大きな壁に守られたダンジョンだったが今は名残でちょこんとした壁があるのみで中は普通の街になっている。
イブは馬で駆け出してすぐに倒れた。そのままヴァンの腕に寄りかかりながら苦しそうに息をしている。どんな不調なのかはわからないが身体はドンドンと冷たくなっていく。
ヴァンは馬に謝りながら可能な限り走り、夜中に見つけた前を走る乗合馬車に頼み込んで乗せてもらう事となる。乗合客達はイブを見てイブの再来と言って快く相乗りを許してくれた。
ラージポットの目前で兵達に囲まれたヴァンはなんとかイブだけを逃がそうとしたが、馬車から降りる前に一気に取り囲まれる。
多勢に無勢、ヴァンの剣の腕では兵士の1人も倒せないだろう。
「おい!退いてくれよ!死んじゃうって言ってるんだよ!ラージポットに着けば助かるって言ってたんだよ!」
ヴァンの悲痛な声に兵士の1人が前に出てきて「わかっている。よく来てくれたヴァン」と言う。
「俺の名前…」
「知っている。だから任せるんだ。君もついてきてくれ!」
兵士に連れられたヴァンはイブと共にラージポットの門を潜る。
門の周りにはラージポットに入る為に順番待ちをしている観光客や巡礼者がいたがヴァンとイブは並ぶことなく中に入れた。
本来なら聖地とされるラージポットなのでじっくりと中も見てみたいし、街の中央にあるダンジョンの入り口も見てみたいが今のヴァンにはそんな気持ちは無かった。
豪華な屋敷に通されたヴァンとその横で簡易ベッドに寝かされたイブの前に長髪で穏やかな顔の中年男と金の装飾が映える中年女が出てくると男の方が「ヴァン君だね。遠路はるばるこの子の事をありがとう」と言った。
「おじさん…俺の名前…」
「見えたし聞いたからね。あ、ご家族はドウコで保護されたから安心だからね」
男はニコニコとヴァンが何処かで気にしていた事を教えてくれる。
だが聞く前に教えられる気持ちの悪さに困惑をしていると横の女が「オルドス様、早く助けてあげてください」と言って男を止める。
オルドスと呼ばれた男は簡易ベッドのイブを見て「あ、そうだね」と言うと「ヴァン君、今からこの子を助けるから静かにしててね」と言ってイブの前に行くと何処からか水晶玉を取り出した。
オルドスは「これは見た事あるかな?魔水晶だよ」と言うと眠るイブの胸に魔水晶を置いて「術展開」と言った。
魔水晶の光が止むとイブは「う…、起きれた?」と言って目を覚ます。
イブはベッドに手をかけてイブを覗き込んで「イブ!」と呼びかけるとイブは一瞬の間の後で「ヴァン…、イブ?」と不思議そうに呟きながら起き上がると自分の手と髪を見て「まだ…イブ?」と言った。
ヴァンには言葉の意味がわからないがイブに近づいて「やあ、おはよう。久しぶりだね」とオルドスが言った。
「おじ様、お会いできて何よりです。ですが何故まだイブの姿を?」
「君から説明した方がいいと思ってね。サンゴ、素敵な名前をもらったね。偶然だが素晴らしいね」
サンゴの名前を聞いてイブは嬉しそうに「はい」と返事をする。
この状況で確実に何もわかっていないヴァンは「イブ?イブの姿?サンゴ?」とイブに聞く。イブはベッドから立ちあがると「落ち着いて、ここまで連れてきてくれてありがとう。ヴァン、あなたのおかげで私は助かったわ」と言った。
この話し方はイブではない。
「なんか話し方もイブじゃない…君は?」
ヴァンの疑問に答える前に呆れ顔のオルドスが「まあそれはあのお風呂が完全な悪手だったねぇ」と言った後で笑った。
イブも恥ずかしそうに「はい。まさか本来の衝動に抗えなくなるとは思いませんでした。そしてそこから元の人格が強く生まれてきてしまいました」と言うとオルドスが「まあ慌てて仕上げた転生術だったからね」と言った後で真面目な顔で「ミチト君が後年いろんな予測をして術開発に力を注いでくれたおかげで君は今も生きられている」とイブに言い、イブも神妙な面持ちで頷く。
ヴァンにはまた興味深い名前が出てきていた。
「イブ?ミチト?ミチト・スティエット?」
「そうよ。待ってて、今治してもらったら話すわ」
イブはニコニコと笑顔が愛らしい少女から令嬢のような顔になって言うとオルドスを見て「おじ様?」と言う。
オルドスは優しく微笑んで頷くと「うん。治療法はあれから20年くらいして完成したんだ」と返す。
「では何故60年も?」
「ご両親のお願いと世の中が荒れ始めたからね。君も見てきただろ?ミチト君の予想通りさ」
この言葉にイブはオルドスの目を見ながら「では私は貴い者としてスティエットの名に従います」と言う。
「いいのかい?今を生きる家族は皆ミントやサルバン、ロス、レスなんかを名乗っているんだよ?ミチト君は多くを望まなかったよ?」
「…送り出してくれた皆の為、貴い者の務めを果たします」
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