第5話 ジャックス領、サンゴの違和感。
ヴァンとサンゴがジャックス領に入り、ジャックスの街に着いたのは出発から6日後の事だった。
小さな村で休憩なんかは取れて、水を買ったりトイレに入ったりご飯を食べたりできた。
季節柄ジャックス領は観光地では無いので乗り合う人間が少ないことでヴァンはサンゴを守れたと思っている。
ヴァンはここまでで気になることがあった。
目の前のイブは確かにイブのような感じはするが何処かイブとは違う気がする。
それはヴァンの持っている本にはミチトがスード・デコの馬車を走らせる馬が怪我をした時、イブと共にヒールで癒し、その時にイブはミドルヒールをミチトに説明している。そして馬にオンマと名付けたのはイブだ。
だがサンゴはイブなのに馬に反応を示さない。思い出のミドルヒールに関しても話してこない。勿論馬を忌避している訳では無いが話しかけていない。
だが確度の高い情報を昔の事と言って教えてくれる点ではイブだと思えた。
イブの過去は秘匿された過去で、本を作る時もミチトは頑として出会う以前のイブとライブの話を書かせなかった。
イブはラージポットの地下12階で、ライブは行方不明になっていたがラージポットの暗黒街で見つかってミチトが助け出している。
それ以前のことを聞くとサンゴは悲しげな顔で「ラージポットまで攫われてきたんですよ。マスターは優しいから本にすると言われても書かせませんでした」と言う。
動物のことに関してもミチトはサンティの牧場で働いた経験で動物使いの力に目覚めていた。
その話をサンゴはしてくれる。
「マスターは動物使いだった意地悪なオーナーさんが牛達を使役してマスターを虐めたんですよ。マスターが力に目覚めて使役された牛達の支配権を奪い取ったんです」
だが聞かなければ本に書かれた4匹の獣の話すら出てこない。
グレイ、ウルクン、クマキチ、パークン。
本にすら書かれていることなのにサンゴの口からは出てこなかった。
こう…経験談というより知識を教わっている感覚に近かった。
ジャックスの街に入り、宿を取ってから食事処を探すヴァンとサンゴ。
ラージポットへの巡礼者が増えてきたからか御供物の荷物を持つ連中も増えてきていて賑わっている。
サンティからジャックスを目指すものは少ないがガットゥーやジャックスから南のヤミアールなんかから来る連中は多い。
食事処に入るとやはり聞こえてくるのは山賊の噂でダカンからサルバンを目指す道は山賊の被害が頻発していると言うことだった。
「ミチトが倒した山賊にあやかろうって奴らか?」
「山賊の再来か?馬鹿馬鹿しい」
そんな話が聞こえながらヴァンは一つの疑問をサンゴにぶつける。
「サルバンには行かないの?」
「…寄り道の暇が無いだけですよ。行けるなら行きたいですけど、まあ今はやめる方がいいです。ラージポットに着いたら説明します」
ジャックスにも温泉はある。
かつてミチトがシック・リミールから頼まれて温泉を掘り抜いて作った温泉で巡礼者には人気で宿屋の女将から「巡礼者なら温泉に行かないとね」と言われてしまう。
確かにここで行かないと怪しまれる事もあるが、サンゴの性格なら「それより早く目指しましょう」となるはずだったのだが…、「温泉!それは入るべきです!」と言って温泉に行くことになる。
サンゴの長風呂はヴァンには信じられない長さで「おーい、サンゴ。居るかー?」「まだ入るのかー?」「まだかー?」とヴァンは確認をしてしまう。
その都度「はい!気持ちいいですよ!」「まだですよ!」「まだまだです!ヴァンは宿で待っててください」と言われてしまい結局サンゴは2時間風呂に入っていた。
そしてこれが完全な悪手となった。
外で待つヴァンはだんだんと集まる人混みに背筋が凍る。
それは単なる湯冷めではない。
そして裏付けるように泣いて出てくる老婆達。
老婆の涙は感涙の涙で「これであの世に行ける」と言っていて嫌な予感がどんどん大きくなる。
そこで聞こえてくる「ヴァン!助けて下さい!」と言うサンゴの声。
ヴァンが「サンゴ!どうした!」と声をかけるとを中からは「サンゴはイブじゃありませんよ!」と言うサンゴの声が聞こえる。
バレた!?
ヴァンは慌ててサンゴを呼ぶと困り顔のサンゴと手を合わせる女供が見送りに来た。
宿屋に戻って話を聞くと最初はバレなかったが隣に居た女の子が「お姉ちゃんはイブ様?」と聞いてきたと言う。
「違いますよ。サンゴはサンゴって名前です!」そう返したが「ピンクの髪の毛が綺麗でお話のイブ様みたい」と女の子は引かない。
そして女の子がサンゴのお団子ヘアを崩してしまうと腰まで伸びるピンクのロングヘアに老婆達も「イブ様の再来!」と感動して手を合わせて泣き出す始末。
その後はサンゴだと名乗っても「イブ様の再来で御座います!」と風呂場で老婆達が土下座を始めてしまいどうする事も出来なくなったと言う。
「サンゴって本当イブ?伝説の中でイブはいつも準備万端な余裕の人ってイメージだよ?そんな失敗するの?」
「ヴァンは酷いです!」
サンゴは口を尖らせてツンとした顔でベッドに飛び込んで不貞寝をしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます