第4話 願いの真意。
乗合馬車は王都行きでチェックポイントのダカンで降りて聖地巡礼の馬車に乗ってラージポットを目指す流れになる。
馬車の中では若いカップルに間違えられたりもしたがこの状況では好都合だった。
横に座った中年の男が「何処から来なすった?」と話しかけてくる。
正直読書で誤魔化したいが無碍にしてトラブルになっても困る。
ヴァンは「オウフ領のアラリー山脈の中、父さん達は山の砦と名乗ってたと思います」と説明をした。
途端に男の顔色が悪くなり「さ…山賊?」と聞いてくる。
肩を落としたヴァンは「やっぱりそうなりますよね。父さん達は傭兵なんて言ってますけど…。帰ったら文句言っておきますね」と言いながら「俺達は傭兵!」と格好つけている父を思い出して「しっかりしてくれよ」と心の中で呟いた。
「逃げてきたんじゃないのかい?先日火の手が上がっていただろう?」
「ああ、まあそんなもんです。俺は幼馴染のサンゴの記憶が曖昧になって急に変な事を口走るようになったんでこうして治す為の旅です」
俯いて表情を見せないようにするサンゴを見る男だったがヴァンがひと睨みすると追及の手を緩めて誤魔化すように「こちらのお嬢さんがかい?」と聞いてきた。
「ええ、なんか聖地に巡礼したいとか言うんですよ」と言ったヴァンの回答に話しかけてきた男は勝手に今まで山賊たちが殺してきた連中の祟りじゃないかと決め付けて「そのまま逃げ出すんだ」とヴァン達を説得してくるのでヴァンは「考えてみます」と返した。
馬車は2日かけてサンティまで来たところで一度降りる。
この下車は予定には無い。
急な変更にサンゴは「なんで降りるんですか?サンゴは早く行きたいし体力も大丈夫ですよ?」と問い詰める。
とにかくサンゴは必死だった。
「ううん。馬車の中で話しかけられたしサンゴの姿も見られたから何処から漏れるか危ない。ここで髪の毛を隠せるフードを買って1日休んで次の馬車でダカンを目指そう」
この提案にサンゴは「ヴァンは旅慣れてますねー」と感心する。
可愛らしいサンゴに感心されたヴァンは「昔は移送の仕事なんかも来てて父さんが長期間離れたくないって母さんと俺は着いていってたんだ。だから少しなら慣れてるし、気になったことはよく質問したからだよ」と説明をしながら照れる。
「ヴァンはライブみたいですね」
「ライブ?女帝ライブ?」
「あはは、懐かしい名前です。ライブも気になったことはとことん調べます。聞いて答えられないと不機嫌になりました」
こんな会話の後でフード付きのストールを買いサンゴに巻かせると、髪どころか表情まで隠れてありがたかった。
宿を取り一晩過ごして翌朝朝食を持ってきた女将が「アンタ達、聖地巡礼の旅だったよね?」と話しかけてきた。
「はい。今日からまた馬車旅です」
「やめときな、昨日この街を出発した馬車が山賊に襲われたってさ。まだ山賊は捕まってないんだ。多分今日も出るよ」
ヴァンとサンゴに衝撃が走る。ヴァンは用心深く「何処行きの馬車が狙われたんですか?」と聞くと女将は「確かシキョウ行きの馬車だね」と教えてくれた。
「…普段から山賊って出るんですか?」
「いや、サンティよりも西のキャーラの方が栄えてるから山賊が出るならあっちだけど…もしかして狩場を変えたのかしら…困るわ」
明らかに嫌な確信があった。
ヴァンがサンゴを見るとサンゴも肯く。
ただサンゴには時間がないと言うことでサンティに長期滞在をする選択肢はない。
「どうしよう?」
「ヴァンと2人なら守れるとは思いますけど馬車が狙われるのは嫌です」
「遠回りにはなるけど確実なのはジャックス領を抜けて目指すルートかな」
「南下して東から迂回ですね。東への道をウシローノさん達が作ってくれたから今も助かってます。南下の道はマスターが子供達に働く姿を見せる為に直したんですよ」
ミチト・スティエットの頼れるスレイブであり仲間のウシローノ・モブロンの名前が出てくる。ウシローノは胸の病を隠して無限術人間の候補者に立候補した。だが無限術人間化の際に病は寛解しウシローノは与えられた使命を全うした。道路作りはその一つで100年以上経過しても皆に利用されていた。
ミチトも子供達に働く姿を見せてないとメロ・スティエットから言われた事で急遽道路を直して受勲までされていた。
「うん。とりあえず南西に降りるよりもこのまま南下してジャックスで降りて行く方法を考えよう。サンティとジャックスの間に大きな街がないから買い出ししないとキツいな…。サンゴ、この後馬車の時間を調べたら買い出しだよ」
「了解です」
買い出しは余分かもしれないが急に馬車を捨てていく可能性もあるので食料は多めに買う。
「サンゴ、猶予が無いって何日で聖地に行ければいいの?」
「今の感じなら後18日くらいですね。戦闘になると日数が減るかもしれません」
「18日が過ぎるとどうなるの?」
「わかりません。でも確実にいえるのは最後に死にます」
唐突に告げられる死の話。
ヴァンが驚いて「死?」と聞き返すとサンゴは真剣な表情で「はい。なのでサンゴを助けてください」と言った。
「じゃあ危ないからって馬車から降りるのは得策じゃ無いね」
「はい。せめてラージポットが見えてれば別ですけどそうじゃ無い時は馬車に乗って居たいです」
「山奥で馬車を壊されたら終わりか…どうするかな」
「まあその時はその時です。行きましょう!」
サンゴはヴァンの手を引いて馬車に乗り込んだ。
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