第3話 珊瑚。
オウフ領からラージポットまでは大人の足でも歩けば半月程かかる。
乗り合いの馬車に乗るにしてもお金が必要で、砦の大人達はヴァンに200ゴールドを持たせる。
ヴァンの父は挨拶代わりに「釣りは帰ってきたら寄越せよな!」と言いながら渡すとヴァンも呆れ口調で「ネコババしないって」と返して笑う。
お金を受け取るのを見たイブは「夜明けまで待ちたいですが追手が来ると困るので出発しましょうマスター」とヴァンに提案をする。
ヴァンは「出発って…その前にイブさんは目立つから着替えようよ」と少し困った顔で言うとイブが不思議そうに「え?メイド服は珍しいんですか?」と質問をする。
「ピンクの長髪にメイド服じゃまずいよ。すぐにイブさんってバレるよ?」
ヴァンの説明にイブはニコニコと「イブも有名人になりましたねー」と笑う。
危機感の無さに困るヴァンは「だから服を着替えてできるなら髪を切って」と言ったとき、ニコニコ顔だったイブが豹変して「髪は嫌です!!」と声を荒げた。
「イブさん?」
「ご…ごめんなさい。イブは髪を切るのは嫌です。マスターが好きだった髪を切るのは嫌です。代理マスターの命令でも嫌です」
三度も「嫌です」と言う、あまりのイブの剣幕に誰も何も言えなくなり、せめて服だけは着替えようと言う話になる。メイド服をやめて砦の少女達が着てる服を貰って着ると確かにこう【イブ感】は減るが、まだ変わった形の剣と腰まで伸びたピンクのロングヘアが【イブ感】を出している。
ヴァンは「イブさん、髪型は変えようよ。切らないで良いからお団子とかにしてイメージ変えようよ。やっぱり腰まで伸びたピンクの髪はイブさんって気がしちゃうよ」と提案をする。
イブも「それは平気ですよ」と返して耳下でお団子ヘアにするととても似合う。
「うんバッチリだね。後は名前だけどさ、俺をマスター呼びはやめて村の女達と一緒でヴァンで呼んでよ」
「いいですよ。よろしくお願いしますねヴァン」
これにはヴァンの父達も意外そうにイブを見る。
この時代の術人間は品質が悪く、細かな指示が上手く通じない事もあり、マスターを別の名で呼ぶように指示してもマスターで呼んでしまったりする。
「うん、これもバッチリ。後はイブさんの名前も変えないと…やっぱりピンクのイブさんも目を引くと思うんだ」
「じゃあ何がいいですか?」
「んー」と言って少し悩んだヴァンは人差し指を天に向けて「サンゴかな」と言った。
「サンゴ?35番とかのサンゴですか?」
「違うよ、前にナー・マステの荷物を運ぶ仕事をした時に父さんが母さんに買ってきたお土産の珊瑚がイブさんの髪色みたいなピンクだから聞かれたら珊瑚の色から取ったサンゴって説明できるからさ」
この説明に呟くように「サンゴ…珊瑚…」と言うイブ。
また豹変するのではと不安になったヴァンが「イブさん?嫌だった?」と聞くとイブは嬉しそうに「いえ!イブは今からサンゴです!よろしくお願いします!」と言った。
ヴァンとサンゴは旅支度を終えると砦を降りる。
もう外には術人間達は居なかった。
イブのメイド服は荷物にしまい、剣は布で巻いて何かの荷物だと思わせる。
砦はアラリー山脈の中腹で暗がりの下山は不安だったが、ひとまずはオウフの街に出て馬車を探す話になる。
ヴァンの荷物には読みかけの本も入り、サンゴが興味深そうに本の内容を聞いて「まったくよく書かれてますねー」と言って笑う。
「わからない部分とか聞いてもいいですか?」
「なんですかー?」
「イブさんがラージポットに来る前のところとか曖昧なんですけど出身は何処ですか?」
「あー…秘密って訳でもないですねー。もうイブが死んでから130年近く経ってますもんね。ドウコですよ。だから北部料理が好きなんですよー」
「ああ、そうなんだ。4番目の奥さんって嫌じゃなかったんですか?」
「んー…マスターはとっても優しい人だから嫌じゃなかったですよ」
そんな話をしながら山を降りるとオウフの街に着く。
「オウフ…懐かしいです。ここでマスターとデートをしました。まあ本にはないですよね」
「なんで?」
この質問にサンゴは可愛らしい仕草で「ふふ。サンゴは謎の多い女の子なんですよー」と言って笑った。
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