第2話 石棺の中身。
夜中、まだ春先だというのに寝苦しい暑さにヴァンは目を覚ます。
パチパチいう音が聞こえてきて何かと思ったら火事だった。
慌てて飛び起きたヴァンは横で眠る子供達を叩き起こして親達を探す。
脳内は「嘘だろ?誰だよ火の始末を怠ったバカタレは」となっていたが家屋の外に出ると話は全く違っていた。
男共は何かと闘っていた。
ヴァンは慌てて女共を探して連れてきた子供達を任せる。
「ヴァン!アンタもここに居な!」
「ダメだよ!父さんを見てくる!」
ヴァンは女共の制止を聞かずに外に出ると男共は10人の敵と戦っている。
「くそっ!こいつら術人間だ!」
「近くにマスターが居やがる!」
男共は悪態をつきながらも善戦していて一進一退の戦いをしている。
そんな中、ヴァンは自身の父を見つける。
「父さん!」
「ヴァン!いい所に来た!コイツらは無限術人間、ミチトの遺産に手を出したバカ共が生み出した術人間だ!いいか、あの石棺を取ってきた俺達を口封じでもするんだろう、だから仕返しだ!壊せ!石棺壊して中開けておかしくしてやれ!俺達にこんな真似した奴らを許すな!」
自棄にも思える父の発言にヴァンが「本気!?」と聞くと術人間と鍔迫り合いをしながら父が「歴史的価値?知るか!ぶち壊してこい!家に火まで放ったんだ!仕返しだ!」と言った。
ヴァンは「わかった!」と言って石棺に向けて駆け出した。
無限術人間
元々は千数百年前の技術で、イブの最初のマスター、シューザ・エシューが現代に蘇らせた技術。
秘宝、無限記録盤と無限魔水晶を体内に埋め込む事で生み出せる無限に術を覚えて無限に術を放てる存在。
ミチトは徹底して術人間を生み出す事を忌避していたが後世の大人達は自分達のステータスとして美しく有能な術人間を求めた。
恐らく襲撃してきた術人間もどこかの貴族のものだろう。
ヴァンが石棺にたどり着くと部屋の空気が違う気がする。
この石棺の歴史的価値からなのかも知れない。
壊していいのか?
そんな考えが頭をよぎったが、男共の中では比較的話は通じるが、言う事を聞かなかった為に怒った時の父はとても怖い。有無を言わさずこれでもかと鉄拳制裁が待っている。
ヴァンは殴られる姿を想像して身震いをした後で「ごめんなさい!」と言って石棺に手を伸ばす。
重い蓋が開くと中から爽やかな花の匂いがした。
「…何年前の棺なんだ?外側はボロボロなのに花…」
石棺を完全に開けると、棺の中には桃色の花に埋め尽くされた愛らしい寝顔のピンク色のロングヘアの少女、メイド服を纏って眠っている少女がそこに居た。
傍らには手紙と不思議な形の剣が二振りあった。
ピンク色の髪色とメイド服を見てヴァンは「なんだ…まるで伝説のイブじゃないか」と呟く。
そんなヴァンの声に反応するように目を開けた少女は「ん〜っ!よく寝ました!おはようございます!」と言って起きた。
棺の中身が起きて話をする。
その出来事にヴァンは目を丸くして「わぁぁぁっ!?生きてる!?」と後ずさりをすると転んでしまった。
「あはは、驚かせてしまいました。こんにちは。イブを起こしてくれたのはあなたですか?お名前はなんて言うんですか?」
「え…ヴァン。ヴァン・ガイマーデ」
「はい。ヴァン・ガイマーデを代理マスターに任命しますね。マスター、イブを助けてください」
イブと名乗った少女はヴァンを代理マスターに任命したと言うと助けて欲しいと言った。
「え?助け?」
「はい。イブは用事があってこの石棺で眠りました。起きれたと言うことはこの時代にはイブを助けてくれるものがあります」
「それはわかったけど君は本当のイブ?」
「はい。イブですよ!」
目の前の少女が伝説のイブ・スティエットだとするとあの物語のイブは何なのだろう?
「イブは71歳で死んだのに君は俺と同い年くらい?」
「まあそれは色々とあります。ところでマスター?外が火事ですか?」
イブは部屋の外が赤く光っている事を見てヴァンに火事かの確認をする事でヴァンは状況を思い出して我にかえる。
「そうだ!敵の無限術人間が攻めてきてるんだよ!イブなら助けてよ!」
「了解です。今のイブは術を使えませんが余裕ですよ」
「え?術が使えない?」
「それはおいおいです。イブの剣は…、アイリスの花…誰ですか?悪趣味です。お手紙は落とすと困るのでマスターが持っててください。剣は吸収白明剣ですか…。まあ無難ですね」
イブは手紙をヴァンに渡して剣を持つと外に出る。
「イブはここです!出てきなさい!」
イブの掛け声に反応した10人の無限術人間は男共を無視してイブの前に立つ。
イブの「敵ですか?」という問いかけに「違います。お連れするように言われました」「石棺が盗まれたならイブ様をお守りするように言われました」と答える10人の無限術人間。
この受け答えに男共が「バカ言うな!俺達はお前らの依頼で1000ゴールドで廟から石棺を運んでたんだろうが!」と怒鳴り声をあげる。
「そうなんですか?」
「……わかりません」
本当に10人の無限術人間は何も知らないのだろう。
マスターの命令で言われたとおり行動をした。
ただそれだけ。
程度の低い魔術師の施術であればこうなるのも仕方が無い。
「まあ良いです。イブは行きません。当初の予定通り動きます。帰ってください」
イブの行動の意味や目的を知っているのか質問はしない。
だが、「ついて来なければ、倒して連れて来るよう言われました」と言って構えを取る。
怖い表情になったイブが「へぇ…」と言って剣を構えると「起きたての準備運動です。かかって来ると良いです!」と言った。
「ファイヤーボール!」
「アイスブロック!」
術人間が放つ術をイブは意に介さずに全て切り進める。
「とりあえず空っぽは気分悪いんで貰います。吸収術!」
斬りながら吸収術を使うとあっという間に無限術人間は倒れるとイブは「術切れです。殺しません」と言って次の無限術人間を目指す。
「強い…術は使えないハズなのに」
「ちゃんと調べたんですね?まあ良いです。吸収術は使えるんですよ!」
その後も向かって来る術人間達をイブは吸収術で倒していくと残り5人は一斉に襲いかかってきた。
イブは待ってましたとばかりに「二刀剣術!吸収十連斬!」と言って攻撃を放ち5人は一斉に倒されると砦からは歓声が沸き上がる。
そんな中、ヴァンが前に出て「イブ!」と呼びかけるとイブはニコニコ笑顔で「マスター!イブは勝ちましたよー」と返事をする。
「マスター?イブ?」
ヴァンの父親は目を丸くしてイブとヴァンを見た。
消火作業の後、術人間達は身包み剥いで砦の外に放り出す。
「きっとマスターが近くに居ますから放置せずに連れ帰ります」
そう言ったイブに男共は手下のように頭を下げて「へい!イブ様の言う通りにします!」と言っていて、そのイブの横でヴァンは引き気味に父達を見る。
イブは戦闘後に簡単な事情を聞いてから石棺にあった手紙を読むと一瞬涙ぐんだがすぐに涙を拭うと「イブはラージポットに行きます。マスターを貸してください」と言った。
「ヴァンはなんの役にも立たないクソガキです。俺達の方が…」
「ダメです。手紙にも「棺を開けた人と」とありました。とりあえず皆さんは石棺をドウコに届けてドウコの人達にイブがラージポットを目指したと言って保護してもらってください。多分ですけど襲撃者と依頼者は別です」
「別ですか?」
「はい。襲撃をした人達もイブの石棺が目当てだったんです。盗まれるのを予測した人達がイブの保護をお願いしたんです。イブはこれからお手紙を書きますからそれを石棺と届けてください。残りの報酬も出ますし生活の保証もされます。だからマスターとラージポットに行かせてください。イブには時間がありません」
イブにそう言われては何も言えない砦の人間は「わかりました」と言って2人を見送ることになる。
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