200歳のイブ・スティエット。~俺、器用貧乏なんですよ。外伝~
さんまぐ
第1話 ヴァン・ガイマーデの生きる場所。
少年は生まれた時には山賊の一員だった。
山賊達は傭兵部隊だと息巻いだが、弱きを踏みにじり強きに媚びる生き様は傭兵部隊ではなく山賊だと思っていた。
まだ13歳。
もう13歳だがまだ人を殺さないで良いと言われている。
砦がわりと寝ぐらの掃除や食事の用意をするだけで済む。後は戦闘訓練は必須になっている。
「ヴァン!芋の皮剥きやっちまってよ」
そう言われた少年は「あいよ」と言って器用にナイフで芋の皮剥きを行う。
少年はさっさと済ませて本を読みたい。
少年…ヴァンはそう思っていた。
ヴァン・ガイマーデが少年の名前。
少年は先日男共が「金にならねーが土産で本だ。字でも覚えろ」と持って帰って来た本を貰った。
他の子供達は刃こぼれした剣なんかに喜んでいた。
ヴァンが貰った本はおよそ130年前の伝説が書かれた本。
大人達に聞けば諳んじられる。伝説の無限術人間、ミチト・スティエットとその家族の伝説。
だが読むと聞くでは大きな違いでヴァンは本の虜になった。
ミチトは、ここアラリー山脈のとある村に生まれた。
父は後にわかるオオキーニ人、母はマ・イード人で村の先住民。
ミチトの生後、父はオオキーニに帰り、オオキーニの血が入ったミチトは疎まれながら村で過ごし15歳で村を出る。
村を後にしたミチトは時代に翻弄されて命を軽んじられ、何度も死に臨みながら才能を開花させる。
才能は「器用貧乏」。生きるために何とかやり切れてしまう力。
だがお金にはならずにミチトの生活は困窮した。
今や聖地の一つだが流刑者として流刑地ラージポットに赴いたミチトはそこで運命の出会いを果たす。
後に1番目の妻になるリナ・スティエット(現段階ではリナ・ミント)と出会いダンジョンを攻略する中で後の4番目の妻になるイブ・スティエットと出会う。
本にも書かれていたが、イブの出自は曖昧でそれは現存するミチトの子孫達も明かさずにいると書かれていた。
ヴァンはイブを迎えたミチトがラージポットの秘密に迫る為に流刑者の身では叶わない王都への転移を試みる所まで読み進めていた。
陽が落ちて戻ってきた男共は肉だの酒だのと大量に抱えていた。
ヴァンは何があったのか聞いていると、大口の依頼が入ったと言う。
依頼はこの砦から西に置かれた廟から歴史物の石棺を引き上げてきて東のドウコにある寺院に移送する仕事で、前金として契約金の1000ゴールドを持って帰ってきた。
「シルバーじゃねぇ!ゴールドだぜ?思わずオウフで買い物してきたって寸法よ!これで依頼達成したら残りの500ゴールドだぜ?」
そう言って喜ぶ男の話を聞きながらヴァンはミチトの時代には全てゴールドで取引されていた事とミチトが意見して1ゴールドを10シルバー、1シルバーを10カッパー、そして1カッパーを10ロキシーと言う金額にしたとあった。
「けど墓荒らしとか大丈夫?」
「大丈夫だって、王都の貴族様のお仕事だぜ?なんでもアラリー山脈の土地を任されたから家を建てようとしたけど廟があるから壊したいんだってさ、だが中の石棺は大切に弔うからドウコの寺院まで運ぶんだと。墓って事でビビる連中が多いから俺らみたいのが任されたんだよ。まあ断ってくれた奴らがいたお陰で高くなってくれてウハウハだぜ」
女共が怯える中、1000ゴールドの輝きに心奪われた男共には言葉は通じずに酒を飲んで気が大きくなっていく。
「明日さっさと廟に行く、それで一晩石棺を砦に置いたら翌日ドウコを目指す!これで依頼達成よ!」
男達は気が大きくなり盛り上がると夜中まで宴会をしていて煩かった。
翌朝、男共が廟を目指して行き日中の手伝いをこなすとヴァンは待ちに待った読書タイムになる。
本は面白くて次々とページが進んで行く。
ヴァンが読むのが早いのではなく、すでに親達から聞き及んでいた話もあるのでついつい読み飛ばせてしまう。
今はもう後の2番目の妻になるアクィ・サルバンが流刑者としてラージポットに赴いた所だった。
ミチトに恋をしていたアクィは離れ離れの3年間に何があったかをミチトと話し合う場になってヴァンはふとミチトの村に関しての情報が足りない事が気になった。
ページを読み進めて、メロ・スティエットを助けた時にスティエット村に降り立った記述があるがそれが何処かは書かれていない。
だが王都にしてもラージポットもファットマウンテンやブレイクポイント、聖地ラージポット、聖地トウテの位置なんかは事細かに書かれている。
だがスティエット村や母のその後、義父の家族、それこそミチトに聖剣と呼ばれて聖地に保管されているシャゼットを授けた兄の存在とその後すら書かれていない。
弟のナハトだけはナハトが有名になった事で本にもその存在が描かれているが、土地の正確な位置はない。
わかるのはここから西のフォーム領の何処かという事だった。
「ねえ母さん、今話してもいい?」
「なんだい?今日は男共が夜には帰ってきて飯だ酒だって言うから時間ないんだよ。手伝いながらなら聞いてやるよ」
ヴァンの母は元々ヴァンに手伝いをさせようとしていたところで、ヴァンがそれより先に話しかけたおかげで手伝いをすれば質問ができるようになっていた。
「うん。じゃあ…その芋の皮剥きするから話させて。この本にはミチトの軌跡は残ってても生まれ育った村に関しては書かれていないんだ。どこか知ってる?」
「ん?そんなもんアラリー山脈の中で……山脈の中で…中なのに比較的豪雪にならない土地で…フォーム領…あれ?」
母は答えに詰まる。自分もアラリー山脈の何処かとしか聞いていない。答えに詰まった母は周りの女達にも「ヴァンが疑問に思って聞いてきたんだけど」と話してミチトのスティエット村に関して聞いたが誰も何も答えられないで「そんな所に気がつくなんてヴァンは頭がいいねぇ」と褒められて終わってしまった。
夜になって石棺を担いだ男共が戻ってくる。
「クソ重てえ、何使ってんだ?まさか明石か?」
そんな話で帰ってきた男共は村の奥に石棺を置くと夕飯になる。
女共は日中、山を降りてオウフまで買い出しに出ていたので食事は祝事よりも豪華になっていた。
ヴァンも普段口にできない串焼肉にかぶりついて舌鼓を打つ。
口中に溢れる肉汁に感動した。
ヴァンは父にスティエット村に関して聞いてみたがやはり男共は知らない。
知っていても酒と仕事の達成感でそれどころではなく話にならない。
中には「案外石棺のあった廟がスティエット村かもな!」と言って盛り上がる始末だ。
ヴァンはここでもう一つ気になっていた事を聞くことにする。
「なんでミチトの伝説は皆が知ってるの?」
「そりゃあお前、成り上がりだからだよ!身寄りのない平民が自分の力だけでディヴァントの剣、ディヴァントの悪魔、マ・イードの闘神なんて呼ばれて貴族達も顔色を窺う、それで綺麗な嫁さん4人も居たんだろ?夢みたいな話じゃねぇか!」
父は酒を飲んで豪快に笑う。
「夢なの?」
「ああ、まあ嫁さんは一人でいいな。俺はやっぱりイブ・スティエットだな。伝説の通りなら4人の中で一番胸がデカい!」
そのまま男共はミチトの4人の妻で誰が良いかと盛り上がりああでもないこうでもないと盛り上がってしまうし。ヴァンは母達から馬鹿な話を聞くなと言われて寝ることにする。
「寝る前に石棺に手でも合わせときな」
母に言われ、石棺まで行って手を合わせて「お陰でお肉食べれたよ。ありがとう」とお礼を言ってヴァンは眠りについた。
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