【KAC20229】トライアングルなヒーローは悪魔と契約する【猫の手を借りた結果】
なみかわ
トライアングルなヒーローは悪魔と契約する
<異界、アナザーヘイブン>
〔地球への侵攻が進まぬのはなぜじゃ、参謀ハチワレ〕
〔シャム=サバトラ閣下、やはりあやつ、ワヘイの力が強く〕
〔まずあいつをしめねばならぬというが……地球の裏側とかで異界の門を開いて魔物を出せば良くね?〕
〔しかしあやつには……『
〔はー(ため息)、キジトラお前、なんかいいアイデア無い?〕
〔その言葉お待ちしておりました! ご覧ください、これならいかがでしょうか?〕
〔なんじゃこのパワポは? 地球の
<現代>
朝のホームルームは相変わらず、眠そうな男子や、前髪を気にする女子、最近は流行りのニュースサイトがあるらしく、スマホをなかなかしまえない生徒が、めいめいに行動していた。……つまり担任の俺の話を聞いていない。
「そろそろ静かにして、前、見てほしいなー」
「えー、ワヘイの話、面白くないし」
「いや、俺は連絡を伝えなきゃならんから! それと俺の名前はワヘイじゃなくカズヒラ!」
俺は海瀬
でもなお前たちがそうやって、何事もない日常を過ごせているのも、俺のおかげなんだぞ? なぜかというと……おっと
……俺は「こっち見てこっち!」と連絡事を黒板に書くふりをして皆に背中を向け、チョークを右手に取って持ち上げる一瞬で、詠唱をきめる……
〔
ところが。
『みんなー、先生の話きこー』
「?!」
『健康診断のことやできっとー』
「?!!」
意識が『
クラスの注意を引いてくれたのは、田中
「ありがとう、ありがとう! そうなんよ! 健康診断! 検便! 検便容器配るぞ!!」
「ワヘイきったねー!」
爆笑されたものの、皆の視線はこちらにむいてくれた。ありがとう、田中、佐藤。あとなぜか『異界の門』まで消し去ってくれた!
私は田中
「姉ちゃん、トイレに置いてるの検便?」
「ゴフッ」
弟がいると、こういうとき、すごくイヤ。そのうえ生理まではじまったら、もっといろいろ聞いてくるんじゃないかってヒヤヒヤしてる。……っていうか、周りはもうはじまってるのに私はまだだ、そのこともちょっと気になっている。
「頭かちわるぞ」
私は威嚇する。「うへー、退散退散」と弟は自室に逃げる。
しかし、検便の前の日だけ良いもの食べてもあんまり意味がないんだよね……お母さん、お寿司食べに行くって言ってたけど……あー、変なこと考えたからか、なんか気持ち悪い。
『ストレートに聞くけど生理のときって検便とか検尿どうするん?』
『おっと』
知らないからこその、『親友の』美桜から素直なラインメッセージがきた。苦笑しつつも、一文字ずつていねいに返信をタップする。
私は佐藤
好きな人がいる。ただ、普通とは違う相手。
『去年生理の前に風邪引いて病院行ったときは……』
『……その時まだ生理いつくるかわからんくて、病院で検尿したら血が混ざってる言われてびっくりしたことあるわ、そのあと生理きた』
『そんな(驚き)、いつくるかわからんの? 困る』
『せやな、だからお母さんに聞いたら毎月だいたい生理来そうになったらナプキン持ち歩くいうてた』
『(納得)』
美桜から来るものは、内容が何であれ届くたびうれしい。彼女がラインを送ってくれたり、イソスタで更新すれば、通知が来るように設定済みだ。
……そう、私の好きな人は、美桜。
けれど、彼女には伝えていない。伝えたら、もう親友関係すらなくなってしまいそうで。
この距離感でいいんだ、と自分に言い聞かせているものの……時たまやっぱり、『憧れのあの人に近づくには』みたいな見出しがあるとうっかり見てしまう。最近は『スマート猫手DX』の情報が頼りだ。
「うわー、なつかしー! ケンドウジャーの猫じゃん」
美桜が好きな(正確には美桜の弟が好きで美桜もはまった)『ハッスル戦隊ケンドウジャー』に出てくるマスコットキャラクター、『ツカネコ』のアクリルキーホルダーを、私はプレゼントした。これを二つクレーンゲームでとるのに2400円かかったけど。
「お揃いでつけてていい?」
「もちろん」
まるで宝石をみつけたように、キーホルダーを窓の方に向けてキラキラさせる。美桜のそんな仕草のひとつひとつが、いとおしかった。
…憧れの人とお揃いのグッズを身に付けてみよう…
なんだか、『スマート猫手DX』の記事を参考にすると、美桜ともっと仲良くなれている気がした。
「というわけで、生徒たちがスマホに夢中で授業に集中しないので、授業中はスマホの電源を切ることとしたいのですが」
「それだとまたモンペから緊急連絡ができないとか苦情が……」
臨時職員会議の議題は、若者に爆発的に人気があるニュースサイト『スマート猫手DX』のことだった。なんだ、俺のクラスだけじゃなかったのか。
『スマート猫手DX』かあ……ださいネーミングだ。
<アナザーヘイブン>
〔クシッ、クシッ、〕
〔キジトラ、花粉症か?〕
〔ハチワレ参謀、この異界にまで花粉が飛んでくるんですかね?〕
〔この前閣下が、異界の門をちょっと開けて花見に行ってた〕
〔そんなカジュアルに開け閉めすんなよ……し、しかしながら、私の作戦『スマート猫手DX』は上手くいっているでしょう、人間の注意を引かせワヘイを孤立させる……!〕
〔閣下は
<現代>
俺はなんで学生時代にもっと体力をつけておかなかったのかと、息をあげて階段をかけ上る。保健室は2階の奥だ。
邪悪なる腐敗した臭気は俺にしかわからない。今度の敵は、教室に現れず……以前ハワイに出た時ほど遠くなく微妙な距離をとってきやがった。
俺の意識はまず詠唱直前に世界の時を司る
異界の門が開いてしまえば、そこから魔物が続々と飛び出してしまう。俺は保健室に転がり込んだ。ふたりほど生徒がいた様子だが、いまは『静止』しているし、俺は誰に隠すことなく右手を上げた。この一瞬で、詠唱をきめる! 闘いの始まりだ。
〔
あざやかな速さの詠唱で生み出した緑閃光色の
爪先が今まさに切れ目を越えようとしていたが、
俺は左手で切れ目を指差す。……詠唱をもって。
〔
異界の門は俺の
俺は再び『時の精霊』にコールし、この世界の鼓動を『再開』させる。
〔ここ、教室じゃありませんけど〕
「あっ」
いつもなら、そのままホームルームだとか授業だとかなのですぐに『再開』を選ぶが、ここでは違和感バリバリだ。クロノス様々、スーツと息を整えて教室に戻ろう。
「……?!」
俺は保健室にいた生徒が、田中と佐藤であることに今気づいた。たしかホームルーム前、田中が体調不良で佐藤が保健室に連れて行ったと聞いていた。田中はベッドで寝ていて、佐藤は心配そうに田中を見つめている……
見つめてるんだよね……なんか近くね? まつげ当たりそうじゃね? 佐藤?
〔ハレンチロリコンワヘイ、時はあまり長く止められませんよ〕
「ぶっ、クロノス、
生徒たちが、学校が、この町が県が地方が国が世界が、均衡を保てるように活躍することこそが、俺の使命。保健室のスライドドアの敷居につまづいて転んでも。
佐藤のあの表情は……見なかったことにしよう。俺は教室に戻った。
(やばっ)
美桜の寝顔を見つめていたとき……、ふっと感情が盛り上がって、私はたぶん美桜にキスしたくなったんだと思う。でも、慌てて頭を離した。パイプ椅子が大きな音を出した。だめ、こんなことしちゃ。……誰にも、見られてないよね?
<アナザーヘイブン>
〔おかしい、『スマート猫手DX 』につながらない……!〕
〔キジトラ、よくみてみなされ? 503ってでてるでしょ、それこっち側のトラブルだから〕
〔うぼあー! サーバーがアクセス過多で落ちてる! スケールアップしてなかった! 作戦失敗……クシッ、クシッ〕
【KAC20229】トライアングルなヒーローは悪魔と契約する【猫の手を借りた結果】 なみかわ @mediakisslab
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