猫の手にも及ばなかった者
呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)
第1話
これは、とある世界の宿屋での話。
「
カウンターで帳簿をつける亭主は一瞬だけ顔を上げて、ニヤリと笑う。
「そういや去年もそんなことを言っていたな、
すぐに帳簿に戻った視線を見れば、興味がないのは一目瞭然。だが、カウンターに乗り出すようにして食い下がる。
「去年も一昨年も、その前も言ってるよ。年末年始は毎年忙しいだろ? 猫の手だって借りたいほどだよ。何人か雇ったっていいじゃん」
「ダメだ」
「どーして?」
「俺は、かんたんに人を信じられないんだよ」
「俺は拾ったのに?」
「
亭主の
「俺が言いたいのはさ、『監視の目を増やそう』ってことなんだけどな。繁忙期じゃなくったって、行き届いているとは……」
「ほう」
愚痴をしっかりと聞かれ、
「わかった。俺はお前を信じるよ。どーも年を取ると頑固になってよくねぇかんなぁ……」
わっはっはと豪快に
翌日から求人の紙が
だから、本当は短期ではなく、普通に人を雇ってほしかった。己が成長した分、
こうして無事に年末が来る前に、ふたりの短期バイトが入った。ひとりはまったくの素人だったが、もうひとりは接客経験があり、面倒見のいい人物だった。お陰でふたりで人に慣れ、仕事に慣れるのもはやく、無事に戦力となった。
年明けのカウントダウン前、一年の締めくくりに看板娘の踊り子が舞台に立つ。黒く長い髪を丸く束ね、けれど、そのまとまりからはぐれた長い髪が天女のように妖艶に舞っている。
「おお、
手を止めて舞台を見入っていた
俺も、と
「イイ女だろ、俺の愛娘は」
「ああ」
間髪無しの返答に、
『ん?』と
猫の手にも及ばなかった者 呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助) @mikiske-n
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