わたしについて本当のことをお話しします

くれは

「くれは」について

 今回のお題を見て、わたしは息が止まるかと思いました。それでも同時に、ここまでそうしてきたように、素知らぬ顔でいつものように何かそれらしい物語を公開してしまえば良いのだとも思いました。

 けれど、一晩経ってもうまくいきませんでした。いえ、時間が経てば経つほど、責められているような気持ちが強くなってきました。

 ですから、これを機会に本当のことをお話しします。

 わたしの「くれは」という名前は、本当は家で飼っている猫の名前です。これまでわたしが公開してきた物語、文章、そのほとんどは我が家の猫の「くれは」が綴ったものでした。わたしはそれを面白がって、こうしてパソコンに入力をして、ウェブに公開していただけに過ぎないのです。


 わたしは自分に人間の物語が書けるとは思っていませんでした。きっかけは〇〇(くれはには普段本名で呼ばれているのですが、本名はここには書けないので伏せます)がウェブ小説を読み始めて、それで自分でも書いてみようとしたことです。

 〇〇は「指から唐揚げが出てくる」とかなんとか言いながら、そのお話をわたしに語って聞かせてくれました。それが面白いのかどうか、わたしにはわからなかったのですが、鳥が登場するところはとても気に入りました。なのでわたしは、自分で鳥を狩る際の心構えについて〇〇に話しました。

 他にも、たくさんのことを〇〇と話しました。〇〇はわたしと話しながらそのお話を書いていました。そして書きあがったとき、〇〇はわたしに「くれはのおかげだね」と言ったのです。

 〇〇が物語を公開するときの名前を「くれは」にしたのは


 名前を「くれは」にしたのは、このお話はわたしが書いたものじゃなくて、くれはが書いたものだと思ったからです。くれはがいたから書けました。

 最初のお話を公開して次のお話を書く時にも、くれはにはたくさん助けてもらいました。猫の手も借りたい、というのはただの慣用句でしょうけれど、わたしはその言葉通りに「猫の手を借りて」書いていました。

 そうやってくれはと話しながら書いているうちに、わたしは段々くれはに依存するようになっていきました。去年のKACもそうです。

 お題が出るとまずくれはと話します。くれはに「こういうことを思い付いたんだけどどうかな」と言えば、わたしの想像の先の物語をくれはが語ってくれるのです。

 時折、近況ノートやツイッターで話題に登場した「知人」というのは、実はわたしのことでした。猫のくれはにとっての「知っている人」であるわたしが、アイデアのタネを投げかけると、くれははそれを物語に膨らませて見せてくれるのです。

 わたしはくれはの書く物語に


 〇〇は、わたしの言葉をパソコンに打ち込みました。わたしの肉球では入力が難しく、音声認識というものも、わたしの声を拾ってはくれません。

 そうやっているうちに、わたしも物語を紡ぐことが面白くなってきていました。〇〇が「くれはのお話、読んでもらえてるよ」とパソコンの画面を見せてくれるのが、とても嬉しかったです。

 そうそう、去年のKACで手に入ったリワードのおかげで換金できた、と言って、〇〇がちゅ〜るを買ってくれました。わたしが綴った物語でちゅ〜るが食べられるなんて、とわたしはとても感激しました。また換金できたら、きっとまたちゅ〜るが食べられるでしょう。

 〇〇は「リワードは換金できるほど貯まらないよ」と言いますが、それでもいつかはまた換金できる時がくるかもしれません。その時が楽しみでなりません。


 わたしはずっと、楽しかったのです。

 わたしの言葉を拾って、それを物語に膨らませるくれはの才は、わたしにはありませんでした。わたし自身がわたしのお話を書くことができたら良かったのですが、わたしは一人ではお話を書き切ることはできませんでした。くれはが眠っている間にこっそりと試してみたこともあるのですが、わたしはくれはのように登場人物を喋らせることができないし、お話も進まないし、終わらせることもできませんでした。

 でも、わたしにはくれはがいました。くれはが語る言葉をキーボードでタイプする間、その物語の向かう先に一緒に駆けてゆくような、そんな気持ちになれました。

 そして、くれはの紡ぐ物語の最初の読者になれるのも、とても嬉しいことでした。


 〇〇は、わたしが語る物語を楽しんでくれます。わたしの言葉をパソコンに入力しながら、あれこれと感想を言ってくれます。それに「こういうお話を思い付いた」と、物語の種を惜しげもなくわたしに差し出してくれます。

 わたしは〇〇にもらったその種を芽吹かせて、大きくしているだけなのです。芽吹かせるのだって、〇〇の言葉がなければできません。〇〇が隣でわたしの物語を聞いて、素直な反応をくれるから、わたしはこうして物語を書けるのだと思います。


 初めてウェブ小説を書いて公開する時、わたしは軽い気持ちでくれはの手を借りました。名前まで借りました。その結果が、今のこの状態です。

 でも、全部借り物だったんです。

 わたしはそれを全部くれはに返そうと思います。くれはは我が家の猫の名前です。これまでの物語もそのほとんど全部が、くれはのものです。


 ここまで紡いできた物語も、パソコンの中の「くれは」も、わたしだけのものではなく、〇〇とわたしのものだと思っています。

 〇〇が物語を書こうとしなければ、それをわたしに相談しなければ、わたしはこうして物語を紡ぐようなこととは無縁だったはずです。

 今だって、〇〇が隣にいなければ、きっとわたしは物語を紡げないでしょう。

 わたしが物語を紡ぐのは、きっと〇〇のためです。あと、ついでに物語を綴ってちゅ〜るが食べられるなら、とても最高だと思います。

 まぐろの味も捨てがたいのですが、一番好きなのはとりささみです。






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