「小説正史三国志 蜀書編」 歴史書たる正史をライトノベル小説として、まじめにサクッと読みたいあなたへ、眠くならず、読める読み物を提供します。
第48話 簡雍曰く「劉備、お前そろそろ、ちゃんとした嫁もらえよ」
第48話 簡雍曰く「劉備、お前そろそろ、ちゃんとした嫁もらえよ」
「甘弟、どうした? 」
劉備は、甘梅を甘弟と呼んだ時、甘梅が少し眉をひそめたことに気付いて、首を傾げた。
「うーん。何でもない」
すぐに、甘梅がニコリとしたので、劉備も笑顔になる。
「甘弟。まずいか? 」
劉備が訊ねると、甘梅は饅頭をむしゃむしゃ食いながら、
「まずいよ。まずい。オラなら、もっとおいしいもの作れる」
「そりゃ愉快だ。それなら、どうだ、甘弟。私の屋敷の料理場で働かないか? 」
「オラは劉兄の使用人なんて嫌だ。オラは劉兄と……親友になりたい。一番の親友に」
「いいとも。甘弟、私は君が気に入った。寝泊まりする場所がなければ、私の屋敷に来ないか」
「うん。そうするよ。でもすぐはダメだよ。今は、やることがあるんだ。三日後、ここでまた会おうよ」
「三日後だな。わかった」
「絶対に来てくれよ。公務で忙しいから、来れないとかは嫌だよ」
「約束しよう。三日後、会いに来る」
劉備がうなずいたのを確認すると、甘梅は、窓を飛び越えて、外へ駆け出ていった。その動きが、ムササビのように素早かったので、
「まあ、なんと、俊敏な子だ」
と劉備は感嘆の息を漏らした。
趙雲は、甘梅の動きに鋭い眼差しを向け、やはりな。と何やら納得した様子であった。
その日の夕方、屋敷に戻って、政庁の椅子にもたれると隣の長椅子には、簡雍が寝そべっていた。簡雍は、自分の屋敷というものを持たず、劉備の屋敷に居候しているのである。
「小劉、今日の街歩きは、やけに長かったな。何か面白いことでもあったのか? 」
簡雍が寝返りを打ちながら訊ねる。
「ああ。今日は、やたらと乞食の姿が目に付いたな。乞食の集会があるのかと思うほどだった」
「乞食の集会か。丐幇の集会のことかな」
「小簡も丐幇を知っているのか? 」
「おう。知っているぜ。街に出て、小劉の英雄談を吹聴していれば、他の英雄の話もいろいろと聞くんだ。丐幇にも英雄がごろごろいるらしいな」
「乞食の英雄とはどんな者なんだ? 」
「いろいろな英雄がいるけど、面白かったのは、棒術を使う美少女の話だな」
「うん? どんな話だ? 」
「こういう話だ。親を殺された女の子が、仇討ちを志して、丐幇のすごい武術家の下に弟子入りするんだ。それで、すごい棒術の武芸を仕込まれる。その棒術ってのは、剣、矛、棍、戈といろいろな武器に応用できるらしいな。そういうわけで、その棒術を極めれば、どんな武器でも使えるようになるそうだ」
「ほう。そんな棒術があるなら習いたいものだな」
「その棒術の名前がまた面白くてね」
「うむ? 」
「打狗棒術と言うんだ」
「犬を打つ棒だと、愉快な名前だな。しかし、そんな技を女の子が習うとはすごいな。それだけ、親の仇討への決意が強かったということか」
「そうだな。そして、打狗棒術を極めた女の子は、親の仇に近づく。もちろん、妾として、近づくんだ」
「ふむふむ」
「もちろん、女の子は、寸鉄一つ帯びていない。仇を討つための武器は、何かと言うと、そいつが肌身離さず持っている剣というわけだ」
「すると、相手が油断した隙を狙って、その剣を奪い、仇を討つということか」
「まあ、そうだけど、相手も、女の子の真意に気付いて、反撃するんだ。そいつは素手でも、強い奴でね。女の子は剣を奪われて、危うしとなる」
「ハラハラするな」
「女の子は、壁にかかっている矛を手にする。相手は、ゲラゲラ笑うわけさ。その若さでは極めた武芸は一つだけだろう。お前は剣は使えるが、矛はどうかな。とね」
「相手は油断したわけか」
「そうそう。何しろ、その子は、剣、矛、棍、戈といろいろな武器に応用できる打狗棒術を極めたわけだからね。そして、油断した相手の心の臓に、矛が突き入れられる。仇討ちを果たしてめでたしめでたしとなるわけさ」
「面白い話だな。そんな話が実際にあったということか」
「だろうな」
「そんな女の子がいるなら、ぜひとも、配下に加えたいものだ。我が軍は、女武将も歓迎だからな」
「なあ、小劉よ」
「うん? 」
簡雍が身を起こして、不意に真顔になった。
「女武将の前に、そろそろ、ちゃんとした嫁もらえよ」
「嫁かあ……。俺は女に縁がないようだ」
「俺も困るんだわ」
「なんでお前が困る? 」
「英雄の話に女の話がないと、つまらないじゃないか。劉玄徳様の女にまつわる話を聞かせてと、民衆にせがまれても、何もないじゃ、しらけるわ。そろそろ真面目に考えてくれ」
「そんなことか。適当に話作っておけよ」
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