「小説正史三国志 蜀書編」 歴史書たる正史をライトノベル小説として、まじめにサクッと読みたいあなたへ、眠くならず、読める読み物を提供します。
第47話 乞食の少年曰く「こんなまずいものは本当は食わないけど、劉玄徳さんが、おごってくれるんだ。食べてやるよ」
第47話 乞食の少年曰く「こんなまずいものは本当は食わないけど、劉玄徳さんが、おごってくれるんだ。食べてやるよ」
「オラ、腹減って死にそうだ。何日も飯食ってないんだ」
「それは、かわいそうに。ならば、料理屋で私がおごってやろう。そこまで歩けるか? 」
劉備がすぐ近くの饅頭を売ってる店を指さした。
「オラ、フラフラで歩けねえ」
「それなら、私が抱っこしてやろう」
劉備が少年を抱えようとすると、趙雲が制した。
「主公。自分が抱きかかえましょう」
「いや、その必要はない」
劉備が少年を抱っこすると、軽い。と感じた。それだけ、痩せていて、食べるものに困っているのだろうと、劉備は、少年に憐れみを覚えた。
異臭を放つ乞食を抱えた男が入ってきて、料理屋の老板は露骨に嫌な顔をしたが、それが劉備だと気づくと、慌てて、挨拶に来る。
「劉刺史様、何をご用意いたしましょうか? 」
「この子に腹いっぱい食べさせてやってほしい。少年よ。何が食べたい? 」
少年がいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「そうだね。佛跳牆、糖醋鯉魚、徳州扒鶏、木須肉、塩水鴨、清蒸鰣魚、無錫排骨、霸王別姫、龍井蝦仁、叫化鶏、紅燒鳙魚、符離集燒鷄、黒臭豆腐、左宗棠鶏。こんなところかな」
劉備は、少年の口から出る聞いたこともないような料理の名に目を丸くするばかりである。
老板は、イラっとしたが、劉備の手前、少年を怒鳴るのをこらえている様子。
「劉刺史様、この子は、ちょっと、ここがおかしいのではないでしょうか? 」
と老板が自分の頭を指す。
「そうさ。この老板は、そこがおかしいのさ」
と少年は、ゲラゲラと笑う。
さすがに、老板もぶちぎれたらしく、
「そんな料理、すぐに用意できるか! そもそも、食材があるわけないだろうが! 」
「食材がないなら、工夫すればいいのさ。頭を使わないで、用意できないなんて、頭が悪い証拠じゃないか」
老板が少年に殴りかかろうとするのを劉備が慌てて、止めた。
「老板。それなら、このお店で一番美味しいものを用意してくれ。お代なら、私が払うから気にせんでくれ」
「劉刺史様のご命令とあらば、用意いたします。お代は頂きませんとも」
「いや。私の小遣いから払うから、ちゃんとした物を用意してくれ」
劉備はそう言って、懐から、銭を取り出した。
「わかりました。では、お持ちしましょう」
老板が怒気をこらえて奥に引っ込んだところで、劉備は少年を見やった。
「君はどうやら、料理のことに詳しいようだな」
「うーん。ちょっとはね」
「そう言えば、名前を聞いていなかったな。私は、劉備。字を玄徳と言う。劉玄徳と呼んでくれ」
「オラは……。甘、甘梅っていうんだ」
「甘梅か。いい名前だな。乞食をしているのか? 家族は? 」
甘梅は首を横にした。不意に瞳を潤ませた。
「家族はいない。オラの父ちゃんは顔を見たこともないし、母ちゃんは死んじゃった。兄弟もいない。独りぼっちなんだ」
「そうか。かわいそうに」
甘梅がボロボロと涙を落とすと、劉備も思わずもらい泣きしそうになる。
劉備が頭をなでてやると甘梅は、ようやく涙を振るって、顔を上げた。涙が流れて、顔の泥が流れた後の肌がやたらと白い。まるで玉のようだなと劉備は思った。
饅頭の料理と付け合わせの物が運ばれてくると、甘梅は、
「こんなまずいものは本当は食わないけど、劉玄徳さんが、おごってくれるんだ。食べてやるよ」
と憎まれ口をたたく。
老板は、またも怒気を含んだ目で甘梅をにらむが、劉備がとりなした。
劉備は本来、口数が少なく、喜怒を顔に表すことはめったにない。例外は、簡雍で、彼とはなんでも話し合える仲であった。
その例外に、甘梅と言う少年も含まれることになるかもしれないと、劉備は思った。
劉備が話すと甘梅は、興味津々に話に聞き入り、面白い件では手を叩いて笑う。天真爛漫な子である。
その反応が楽しく、劉備は、いろいろな話をし、ついには、劉兄、甘弟と呼び合うようになる。
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